276 決意
「キリカ、誰かが突然いなくなることはあるだろうが、皆が突然いなくなるなんてないと思うぞ」
カーツ君がやってきてキリカちゃんに話しかけた。
「そうですね。……キリカやカーツとユーリさんがリリアンヌ様と一緒に突然いなくなったことがあったでしょう?」
ブライス君も来て会話に入る。そういえばあった。あれは誘拐されたんだよ。
「その時も、僕の周りにはローファスさんはいたし、セバスティアンさんが事情を説明してくれたしギルドや公爵家の人や多くの人が皆を心配して助けようと動いていました。僕は一人ではなかった。みんないなくなったわけではなかったですよ」
そりゃそうか……。誘拐事件が起きたんだものね。心配してくれたんだよね。
「違うの!皆じゃなくても、誰か突然いなくなっちゃったらいやなのっ!」
キリカちゃんが目にいっぱい涙を浮かべた。
誰かが突然いなくなることを想像しているのだろうか。
ふと、日本に残してきた人たちの顔を思い出す。
こうしてキリカちゃんのように、私がいなくなったことを悲しんでくれる人はいるだろうか。
……主人はきっとどこに行ったんだ勝手にと、怒っているような気がする。華菜さんは私のせいだと自分を攻めているかもしれない。
親も兄弟もいないから家族が心を痛めていることはない。
仕事をしていなかったから、職場の人が心配してくれているなんてこともない。
ご近所さんとの付き合いはあったけれど……離婚したと主人が言えばそういうことなんだで終わるだろう。
……奈々は心配してくれるだろう。いつも大丈夫?と私の身を心配してくれた唯一の人。
両親が無くなって……私の顔色が悪い時に「体調が悪いの?」と声をかけてくれる。私がため息をつけば「悩み事?」と声をかけてくれる。
……結婚して会える日がずっと少なくなってしまっても。会えばいつも……。
あれ?なんで、私、いつも奈々に心配されていたのだろう?
ちょっとまって。結婚して……幸せそうだねぇって言われたことも……あったよね?
なんで、どうして、いつから私、奈々に心配かけてた?何を心配されてたんだっけ。……。
ごめんね、奈々。もしかして、今頃私がいなくなったことに気が付いて心配してくれてるよね。ああ、もしかするとまだ気が付いていないかもしれない。会うのはときどきだったし……。
離婚届けに印鑑を押さなくてもいいかとは思っても……。奈々には連絡したい。
手紙でも電話でもできたらいいのに……。
奈々に「心配しなくて大丈夫だよ。私ね、帰りたくないほど今は幸せなの」って……。
……なんか、そういう魔法とか無いのかな。
流石に無理なのかな……異世界に影響する魔法なんて。もしあれば……、日本だって魔法が使える場所ってことになっちゃうもんね……。
じゃぁ、やっぱり、伝えるには私が日本に何らかの不思議な力で突然戻る……。
ぞっと背筋が冷たくなる。
ぶるりと震えると、腕の中のキリカちゃんがぎゅっと私にすがる手に力が入る。
「いなくならないよ……」
いなくなってたまるもんですか。大丈夫。いなくなったりしない。
私は、もうずっと死ぬまでこの世界で暮らすんだ。
ご覧いただきありがとうございます。
タイトルの番号とか間違ってたりとかごめんなさい。
ハズレポーションが醤油だったので~の漫画6巻が12月15日に発売となります。
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さて。今年はあと何回更新できるか!流石に少なすぎたのであと数回は更新するぞ!と、思っています。お付き合いいただけると嬉しいです。
感想ありがとうございます。なかなかお返事できなくて申し訳ありません。とても楽しみに読んでおります!では。まだ年内更新するから年末のご挨拶はしないよ!




