閑話*日本では~奈々視点4
奈々は、次の休みの日、メモを見ながら優莉のマンションへとやって来た。
スマホを取り出し、電話をかける。
もしかして、家にいるかもしれない。
平日、旦那が仕事に言っている間。買い物に行く以外はほとんど家にいると言っていた。
はずなのに。
奈々は、コールし続ける電話を耳に当てため息をつく。
出ない。
電話を禁止された……なんてことは流石にないだろう。
マンションはそこそこの高級マンションだ。旦那はそれなりに稼いでいるのだろう。その割に、優莉は、何年も同じ服を着ている。
一番最近会った時は、学生時代に来ていたコートを羽織っていた。
新しい服も買えないのか買わないのか買ってもらえないのか……。心配にはなったけれど、奢るよと言った時の悲しそうな寂しそうなあの顔を思い出して、言葉を飲み込んだ。
もともと優莉は服装にこだわりがある方ではないし、コートは気に入ってると言っていた。亡くなった母親が似た色のコートを持っていたから……と。
ふと思い出したことに、奈々は怒りを覚えて奥歯を強く噛みしめる。
そうだ。優莉は結婚したときに、荷物のほとんどを処分させられた。持っていても仕方がないだろうと。
亡くなった親の形見のほとんどを……。
マンションだから、一軒家と違って狭いから仕方がないんだと……でも小さなものは持っていけるからと、悲しそうに笑っていた。
「何よ、全然狭そうに見えないんだけど……」
高くそびえるマンションを見上げる。
高層高級マンション……か。
マンションのエントランスの手前。ガラスの自動ドアの中に入ると、部屋の番号を押すボタンがある。
住人に内側から開けてもらえなければ、2つ目の扉が開かず入れないようになっている。防犯もしっかりしたマンションだ。
奈々は、優莉の部屋の番号を押した。
呼び出し音が小さな音で聞こえる。待っても、応答はない。
電話に出られないだけではなくて、本当に家にいないのだろうか……。
2分ほど待ち、もう一度番号を押す。
しばらく待ってもやはり応答はない。
留守……かな……。どうしよう。
ドアの内側から、一人の女性が出てきた。軽く会釈を交わすと、女性はそのまま立ち去る。
住人だろうか。
どうしようか……。
と、ぼんやりと考え込んでいると、先ほどの女性が戻って来た。
ゴミ捨てかなにかちょっとした用事だったのかな。
……ところどころに旦那ディスを入れると、筆がはかどるのは内緒……
お友達もひそかに気に入らなかったのねー。旦那のこと……。




