29 魔法
「塩か、今度来るときに持ってきてやる。あとほしいものを書き出しておいてくれ、あ、いや、字は書けるか?」
かける。故郷の字なら問題ない。
「故郷の字しか書けません」
「まぁそれで大丈夫だとは思うから、書いておいてくれ」
え?
日本語で大丈夫?
部屋で紙に「塩」と書く。いやいや、漢字は無理かな?
と、「しお、シオ、shio」と並べて、「solt」と書き加えた。残念ながら私はそれ以上の言葉は知らない。
朝はいつもより少し早起きしてご飯を炊き始める。
昨日精米してもらってあるので洗ってかまどコンロで炊くだけだ。
猪肉を薄切りにして、玉ねぎも同じように切る。
ちょっと甘みが強くなっちゃうけど大丈夫かな……と思いつつ、酒と醤油とポーションで玉ねぎと肉を痛める。
肉の生姜焼きをイメージしているのだけれど、生姜替わりのジンジャーエール味ポーションでどこまで再現できるのか……。
焼いて味見。
ふおっ!
大丈夫。
おいしい生姜焼きの出来上がりです。はー。朝から食べるメニューじゃない気もしますが、お弁当に肉巻きおにぎりを作るつもりなのです。
あと、卵とか朝食っぽい食材が全然ないので……。
そうだ。ほしいものリストに卵も書き加えておこう。あ、でも卵とか日持ちしないものはむつかしいかな。じゃぁ、鶏?鶏を飼う?
同じ理由で牛乳とかも無理かな。牛を飼う?
……いや、さすがにちょっと難しいよね?うーん。冷蔵庫、冷凍庫あれば便利なのにな。
ん?まって?
火の魔法石を使ったコンロなんてファンタジー製品があるんだもん。氷の魔法石を使った冷蔵庫みたいなのもあるんじゃない?
「おはようございます。ユーリさん早いですね。食事の準備手伝います」
「あ、ブライス君おはよう!ありがとう。じゃぁ食器を並べてもらえるかな?それから、教えてもらいたいことがあるんだけど」
ブライス君が皿とフォークをテーブルに並べながら顔はこちらに向いた。
「教えてほしいことですか?」
「うん、火の魔法石ってあったでしょ?似たようなもので氷の魔法石とかで物を冷やしたりするのってあるのかな?」
ブライス君がきれいな顔を少し傾けた。
「氷の魔法石は聞いたことがありませんね。魔法石は火と水だけだったはずです」
そっか。残念。冷蔵庫みたいなものはないっていうことか……。
がっかり。
「ユーリさん……氷の魔法石はありませんが……」
ブライス君は肩を落としている私を励まそうとしたのか、コップに水を汲んできて目の前に差し出した。
「まだレベル10になったばかりでうまく使えるかわかりませんが……」
ん?
「【氷結 水よ温度を下げ氷となって我が前に姿を現せ】」
うわぁ!
木のコップの中の水が、みるみる凍ってしまった。
「ブライス君、すごい、これ、魔法だよね?」
初めて見た本物の魔法に興奮が隠せない。
思わずブライス君のコップを持つ手を両手で包み込んだ。
「よかった。ユーリさんに喜んでもらえた。初めての魔法が特別な物になったよ」
「おいっ、ブライスお前魔法って?」
いつの間にかキッチンに姿を現したローファスさんが手元の凍ったカップを見つけた。
「これ、お前の魔法か?いや、そんな馬鹿な……。レベル10になったばかりでまだ魔力の扱い方も練習してないだろう?いきなり魔法が使えるとか、ありえないぞ?」
「昨日部屋に戻ってから練習しましたよ」
ローファスさんが頭を押さえた。
「いや、待て待て、簡単な魔法を使えるようになるだけでも1カ月はかかるんだぞ?」
「レベルが10になる前に、呪文も魔力操作法も本で勉強してましたからね」
ローファスさんがそうか、俺は本読むのも人の話を聞くのも苦手で独学半分だったから3カ月かかったんだよなぁ……と、何やら遠い目をしている。
solt salt あえて