28 信頼
寝る前に、ローファスさんにはお米の精米を頼んだ。
ブライス君がしてくれていたけれど、いなくなる。3人で毎日精米して食事の準備をするのはちょっとむつかしいので。精米しておくと風味が落ちるのが早いっていうけど、スーパーで買うお米だって、精米から3カ月4カ月たったのを食べることもあるんだし大丈夫だよね。2人暮らしだと10キロはなかなか消費しないもの。
「この茶色いのがまずい麦のまずさの原因だったのか」
ローファスさんが精米して出てきたヌカを見てつぶやいた。
「ええ、この白くなった米を粉にしてパンを作れば、パンもおいしくできると思いますよ」
「なるほどな……。これはいい。まずい麦の価格は普通の麦の4分の1だ。まずい麦からでもおいしいパンが食べられるなら喜ぶ人間はたくさんいる。ユーリ、これはギルドに報告してもいいか?」
うーんと考える。
まずい麦を食べている人たちは貧しい人っていうことだよね。
貧しい人が豊かな食生活を送っているとは思えない。確かに味は悪いんだけど栄養価は精米前の何倍もあるんだよね。いきなり精米したパンに切り替えて栄養失調になったりしないだろうか?
そういえば、ブライス君がパンとじゃがいもだけでも3日に一度ポーションを飲んでいるから大丈夫というようなことを言っていた。ポーションはパン1個と同じ値段。……貧しい人でも時々飲むことができるかな。
なら精米した米粉パンを食べても大丈夫かな?でもポーションは満腹感を得られないからと同じ金額ならパンの方がいいっていう人もいたりしないかな?
うーん。むつかしい問題だ。
「何か問題か?」
「栄養が」
「栄養?」
栄養を補えるようにポーションを使って米粉パンを作ることはできないのかな?
ジンジャーエールの味がするパンか……。たくさん入れられないから効果はどれくらいあるんだろう。ああ、でもポーションを料理に使うっていうことは、しばらくは公開しないんだった。
「ごめんなさい、あの、まだいろいろ検証したいことがあって、やっぱりもう少し待っていただけますか?」
ローファスさんは何も細かいことを聞かずに頷いてくれた。
「分かった」
栄養豊富なパンが作れるかわからないけれど、いろいろレシピを考えてみよう。
……ありがたいのは、ポーションがパンと同じくらいの価格で手にはいるということ。
あ、初級だからかな?上級ポーションがどうのこうのって言ってたもんね。需要もさほどないのかな?
あれ?需要が増えたら、供給は追いつくの?
他にポーション畑があるのか知らないけど、ここでとれるポーションなんてそれほど量はないよね?
「【契約 まずい麦の……」
と、口を開いたローファスさんの口に手を当ててふさぐ。
「信用してますから、契約なくてもいいです」
にこっと笑う。
「い、あ、いや、信用……か」
ローファスさんが狼狽する。
え?そんな狼狽するようなことじゃないよね?
ローファスさんが悪人じゃないことは子供にもわかってると思うけど。
「なんか、こう正面切って信用してるって言われるの、照れるな」
ローファスさんが髪をかきあげる。
「逆に私の世界では、契約なんてよっぽどの時にしかしなかったので不思議な感じです」
書類にサインしてハンコ押すのが契約。
むしろ、結婚の契約したって裏切られるんだ。契約に何の意味があったのか……。
信用こそ大切なことだ。
「そっか。いや、ああそうか。契約が当たり前になりすぎて、信用するしないより前に契約が前に来るもんな……。人を信用するか……難しい。けど、大事なことだよな。ありがとうなユーリ」
頭をぽんぽん。
気が付いてないのかなローファスさん。
なぜ精米することを黙っているのかとか、理由が分からないのにそれ以上尋ねないとか、そういうの私の判断を、私を信用してくれているからだって。
ローファスさん、人を信用するの難しいっていいながら、自然にできてるのに。
どこから来たのかも分からないレベル1の年齢不詳の女。こんな怪しい私なのに……。
「これはどうするんだ?」
精米の終わった米の下にはたくさんの茶色い粉。
「ぬか!」
「ぬ、か?」
「捨てません、ぬか漬け作ります!」
あ、でもまって、作ったことないけど、レシピは知ってる。
知ってるけど、必要な物が足りない。最低限必要なのは、ぬかと水と塩だ。
「塩がない……」
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