27 公園
「はいはいはい、もう喧嘩はしないでくださいね。二人ともそんなに私の料理が気に言ってれたのねありがとう」
日本にこんな言葉がある。
男は胃袋でつかめと。
だが、胃袋だけ掴んでもむなしいというのが今の二人のやり取りでわかった。
私が好きなんじゃなくて、私の料理が好き……ね。
き、傷ついてないよ。
うん。いや、だって、私既婚者だし。
は、ははは。よかった、まだ離婚してなくて。離婚して独身者だったら、もっと心が傷ついていたような気がする。
「二人はこの後どうするですか?明日の朝にもうここを出ていくの?」
「中級ダンジョンに荷物が置きっぱなしだからな。明日朝取りに戻って、夕方にはここに帰ってくるよ」
じゃぁ、朝食と夕食はここで食べるんだ。お弁当も作ろうかな。でも、ちょうどお昼くらいに中級ダンジョンに行くなら必要ないかな?
ローファスさんはよく食べるからいっぱいご飯作らないとな。
「僕はローファスさんがあさって小屋を出ていくときに一緒に街へ……ここを卒業するよ」
ブライス君の言葉にキリカちゃんとカーツ君が寂しそうな顔をする。
「ちょくちょく顔を出すからね。その時には、ちゃんとダンジョンルールをユーリさんに教えてるか、レベル上げをがんばっているか、いろいろチェックするから。がんばるんだよ」
ブライス君がキリカちゃんとカーツ君の頭をなでる。
「二人とも街には一度戻らなくても大丈夫か?」
「カーツは孤児院育ちだし、キリカは帰っても飲んだくれの父親がいるだけだよ」
ローファスさんの質問にはブライス君が答えた。
え?
カーツ君は孤児なんだ。キリカちゃんは孤児ではないけど、それよりもある意味不幸な毒親がいるってこと?
気が付いたら、両手を広げて二人をぎゅっと抱きしめていた。
「よかった。二人とも小屋からいなくなっちゃったら、私一人っきりになっちゃうもの。いてくれてありがとう。三人でポーション料理の研究も協力してね。おいしいかおいしくないかも教えて」
カーツ君の手が、私の腕の上に乗った。
「任せとけよ。ユーリ姉ちゃん、畑の往復だけで息が切れてるだろ?俺、畑仕事頑張るからな」
ありゃ。ばれてる。畑の往復で息が切れてること。1回往復するとHPがげそっと減るんだよね。
「ユーリお姉ちゃん、ママみたい」
キリカちゃんの言葉に心臓撃ち抜かれました。
ズキューンッ。
かわいい、かわいい。
私、日本では子供を望んだけれどそれはかなわなかった。
面倒を見ていたかわいい子供たちは、本当の母親のもとに帰って行ってしまった。
うれしい。ママみたいなんて思ってもらえるの、うれしいっ!
思いっきりほっぺたスリスリしたいっ!って、思ったらしゅっと腕の中からキリカちゃんが消えた。
「こらキリカ。ユーリはまだ若いんだから、ママみたいは失礼だろう。本当のお姉ちゃんみたいくらいにしておけ」
キリカちゃんはローファスさんの右肩に担ぎ上げられていた。
ローファスさんの頭にしがみつくキリカちゃん。
「えへへ、ローファスさんは、お兄ちゃんみたい」
左肩に担ぎ上げられていたカーツ君が笑った。
「キリカ、ローファスさんの年ならパパみたいでもいいんだぞ」
カーツ君の言葉に、ブライス君が確かにと頷いた。
「いやいや、お前たち、俺はまだ独身で、気持ちは若いんだぞ。パパはやめてくれっ!」
子供思いの優しいローファスさんがお父さんだったら、きっと幸せな家庭が築けるんだろうなぁ。
公園でキリカちゃんとカーツ君と一緒にボールで遊んでいるローファスさんを想像した。
私は、レジャーシートを広げて三人の様子を幸せいっぱいな気持ちで見ている。
「お腹すいたー」
と駆け寄ってくる3人に、作ってきたお弁当を広げて準備するのを待っているんだ。
って、何を想像してるんだ!
ブルブルと首を横に振る。
「ほら、ユーリ姉ちゃんが首を横に振ったぞ。ローファスさんの年齢で兄ちゃんは無理があるって思ってるんだ」
いや、違う、そういう意味で首を横に振ったわけじゃ……。
「あー、いやぁ、そうか……。そうだよなぁ。みんな27,8までには結婚して子供いるもんなぁ……」
へー。この世界ではそんな感じなのか。
日本じゃぁ、20代の既婚男性はそんなに多くなかったよ。




