246 投擲失敗!ぎゃー
「ユーリお姉ちゃん、投擲したらいいのよ」
へ?
あ、そうか。投擲武器……いや、菜箸は武器じゃないけど、ハンノマさんが作ったときには投擲用だと思って作ったから、投擲しないと威力が発揮できないのか。
「えいっ!」
てなわけで、投げました。
……モグラは、米袋サイズで、距離的には2mも離れてないのに……。
外れました。
「ええええっ!」
なんで!
いや、もしかしてすでにオリーブオイル100%命中率切れてた?
っていうか、切れてたとしても、この距離で当たらないとか……。
な、泣いていいかな。あまりにもふがいなくて。
ううう。なんていうの、ドーピング……補正値に頼らなくてももうちょっと何とかしないと、こうして効果が切れたとたんに最弱!じゃ困るよね。
投擲、もうちょっと的に当たるように投げる練習したほうがいいよね。ああ……。がんばろう。
「ユーリ姉ちゃん、あぶねぇっ!」
カーツ君の言葉に、ハッとして危険がどこにあるのか周りを確認する。
次の瞬間、グイッとダイーズ君に手を引かれ、そのまま抱えられるようにしてその場を離れる。
「うわー、ユーリお姉ちゃんの武器の威力はすごいのよ……」
キリカちゃんが驚いている。
え?私の武器?
刺さった菜箸を見ると、そこから壁に亀裂が入っている。そして、あっと思った瞬間、ガラガラがらと壁が崩れおちた。
「あ、ぶなかった……あのままあそこにいたら、崩れ落ちてきた岩の下敷きだった……ありがとうダイーズくん」
ううう、ハンノマさん、威力の高い武器って、壁を崩しちゃうなんて、おちおち投げられないじゃないですか……ぶるぶるっ。
やっぱり、練習しないと。でも、練習するたびにあちこち崩れたら……。
あ、そうだ。ローファスさんとブライス君たちの特訓で、あちこちボロボロになってたけどダンジョンのあるところの壁は無傷だったんだよね。だったら、ダンジョンの壁に向けて投擲の練習すれば問題ないんじゃない?
って、まって、ここもダンジョンだよね?
壁が、崩れたんですけど?どういうこと?
「まずい……隠し部屋だ……」
隠し部屋?
だから、普通のダンジョンの壁とは違ったってこと?
「え?隠し部屋って、宝箱があったりする部屋か?」
カーツ君が期待に満ちた目をしている。
「すごいのよ、ユーリお姉ちゃん、隠し部屋見つけちゃったのよ!」
キリカちゃんの言葉にかぶせるようにダイーズ君が声を上げた。
「早くダンジョンを出ましょうっ!隠し部屋には宝箱もありますが、強いモンスターもいるはずですっ!」
え?嘘?
「強いモンスター?それって、まさか、あれかっ!」
カーツ君が崩れた壁の向こうを指さした。
「まずい!あれは……僕たちでは太刀打ちできないA級のモンスターだったはずですっ」
ダイーズ君がそう言いながらも、モンスターに向けて弓を構えた。
「早く逃げてくださいっ!僕が時間を稼ぎますっ!」
逃げなくちゃと、足を動かそうとして転んでしまう。
ああ、私の馬鹿っ!
そうだ、補正値が切れて、俊敏性も落ちたから……。
こんな時に……。
「危ない!ユーリお姉ちゃんっ!」
キリカちゃんの悲鳴。
立ち上がろうと手を付いた時に、私の真後ろに向けてダイーズ君が矢を放った。
「ダメだっ、弾かれた」
振り返ると、目に飛び込んできたのは、喫茶店のウエイトレスさんが持つお盆のような大きさの大きな手だった。
蹄がある手……いや、足?
殴られたら痛そうだなぁ……どうせなら、肉球のある手に殴られたかった……いや、殴られるのは嫌だけど。
蹄よりは、肉球の方がまだダメージが少なそうだ……なんて思う私の頭に巨大な蹄のついた手だか足だかが振り下ろされた。
「きゃあっ」
いつもありがとうございます。
蹄より肉球に倒されたかった……完




