243 第三の部屋にゅん
ふふふ。ダイーズ君の口にもあってよかったです。
「村に帰ったら母さんにも食べさせてあげたいです。このベーコンを少しいただいて帰ってもよろしいでしょうか」
なんて、いいこなんでしょう。美味しいものを食べると、故郷に残してきた親の顔が思い浮かぶなんて……。
「……本当は、村のじっちゃんやばっちゃんやおじちゃんやおばちゃんやみんなにも食べさせてあげたいけれど……」
うりゅり。
故郷を大切にする子です。
そういえば、村には高齢者が多いという話じゃなかったですか?狩りができる人間が少なくてダイーズ君が村の人のために狩りをしないといけないみたいな話を聞いたような……。
保存食を増やせば、ダイーズ君が村を安心して離れることができるってことですよね。
「ねぇ、ダイーズ君、ダイーズ君の村ってどれくらい遠いの?馬車で行ける?」
ダイーズ君がんーと首をかしげる。
「割と遠いです。馬車が通れない道があるんですが、人は通れますよ」
「じゃぁ、たくさんの荷物は運べないね……」
「大丈夫ですよ。中型の荷馬車1台分くらいの物であれば、運べますから」
ニコニコと笑っているけれど……。
待って、それ、おかしい。
普通の人が運べるレベルじゃないよ……。
ああ、でも、めちゃくちゃ大きくて重たそうな、馬車で運ばないとダメなサイズのイノシシを、ローファスさんとかセバスティアンさんとか……ダイーズくんもひょいひょいと運んできたような……。
冒険者すごい。
ううう。まぁ、でも、そうか。運べるのであれば……。
「小屋に帰ったら、ダイーズ君またイノシシとか捕まえてきてくれる?それで、皆でベーコン作ろうか。小屋で食べる分と、ダイーズ君が村に持って帰る分ね。持って帰れるだけたくさん作って持って行けばいいよ。それなりに保存もできるよ。あ、干し肉も作ろうか。そのまま食べるには固くなっちゃうと思うけど、煮れば柔らかくなってお年寄りでも食べられるようになると思うよ」
ダイーズ君が驚いた顔をする。
「え?あの、ユーリさん、いいんですか?だって……その……僕の村は、ユーリさんにとっては全然知らない人たちで……」
「ん?全然知らなくはないよ。だって、ダイーズ君の大切な人たちっていうことはもう知ってるよ」
ねーと、カーツ君とキリカちゃんに同意を求めるように顔を見る。
「だよな。なんか知らないけど、でも、いい村なんだろうなってダイーズ兄ちゃんから伝わるぞ」
「あのねー、キリカね、会ってみたいのよ。ダイーズお兄ちゃんの村、行ってみたいのよ」
うん。うん。
「ありがとうございます。でも、えっと、なにもお返しできないですし……」
「ちゃんと作るの手伝えば食べていいんだよね、ユーリお姉ちゃん」
「そうですよ。イノシシは私には捕まえられないので、お願いします。あ、鶏肉も食べたいので、鳥もお願いします」
あまり恐縮しているので、積極的にお願いをする。
「はい、分かりました。狩りは得意なので、任せてください!」
補正効果は、2日半でなくなる。ダイーズ君の村に着くころにはなくなっているだろう。
「さ、じゃぁ、念のためちょこっと非常食で持っていくから、もし必要になったら言ってね!」
朝食を終えて、細かく切ったベーコンと小さくしたオリーブオイルを塗ったパンを布にくるんでポケットに入れる。
補正効果が切れたら、パンにベーコンを挟めば料理したことになるはずなので、効果復活ですよ。
まぁ、3つ目の部屋といっても、1つの部屋が体育館程度の大きさだし、まっすぐ3つつながっているだけなので迷子になることもないから、効果が切れる前に戻って休憩を取りながらダンジョンに行けばいいんだけどね。
一応、準備は怠らないがダンジョンルールなので。万全の態勢で臨みますよ。
あと、忘れ物はないかな。
「じゃあ、行きましょう!」
3つ目の部屋に到着。あっという間。
「あ、出てきた!」
キリカちゃんが早速床からにょきっと顔を出したモグラにジャンピングキックをかました。




