232 投擲が私のスタイル?
「そうだったのよ!ユーリお姉ちゃん、新しい武器をハンノマさんのお店で買ったのよ!ちゃんと持ってたの!」
ぐすっ。
キリカちゃんが笑顔になった。
「え?なんだこの武器?」
カーツ君が首を傾げた。
武器じゃなくて菜箸兼つまようじです。
「どうやって使うんだ?殴るのか?刺すのか?」
刺し箸は、端の使い方としてマナー違反ですが、つまようじは刺して使うよねぇ……うーん。殴るは、ない気がする。
「すごいですね、小さくなったり大きくなったりするんですか?見せてもらってもいいですか?」
ダイーズ君が菜箸に手を伸ばす。
「もちろん。どうぞ」
と、ダイーズ君の伸ばした手に菜箸を渡そうとしたとたんに、ダイーズ君の手がバチンと菜箸にはじかれた。
「え?」
「あのね、ダイーズお兄ちゃん、ハンノマさんの武器は、レベルが足りないと持つこともできないんだよ」
「そういえば、ハンノマさんはそう言っていました。だから、ゴムを使った武器を作るときにはまずボクのレベルに合わせて作ってくれるって……」
へー。そうなんだ。ハンノマさんが武器を作ってあげるってことは、ダイーズ君すごいんだよね。
だって、S級冒険者のローファスさんでも、なかなか作ってもらえなかったみたいなこと言っていたし。
「僕には持つことができない武器を、ユーリさんはそんなに軽々と……」
ん?
「そうなのよ。ユーリお姉ちゃんすごいのよ。ローファスさんが使えない包丁も使えるのよ」
「ローファスさんもすごいんだぜ!S級冒険者だからな!」
キリカちゃんとカーツ君の言葉に、ダイーズ君の目がキラキラと輝いている。
「S級冒険者にも使えない武器を、すごい」
いやいや、ちょっと、ちょっと、待って、待って。
「ダイーズ君違うからね?私はむしろ他の人が普通に使える武器が全然使えなくて、調理器具しか扱えない上に、えーっと、そうだ、武器、唯一の武器として買ったものはこれだから!」
ばぁーんと、ヒノキの棒をダイーズ君に見せる。
「おお、すごいです!剣豪、剣を選ばずと言いますが……木の棒で十分とは……」
なんだ、その、弘法筆を選ばずみたいな言い方っ。誤解、誤解が解けない。
「僕はまだまだだと、村でさんざん言われてきましたが……本当ですね」
「あのね、ダイーズ君、私、本当に弱小だから。えっと、……」
なんて言ってたっけ、菜箸のこと……えーっと、そうそう。
「投擲武器?だから、えっと、特別なんじゃないかな?」
オリーブオイルを食べれば命中率100%だから、投擲上手だと思ってもらってもある意味問題ない……。
「そうだよ!ユーリ姉ちゃん、巨大なクラーケンを包丁投げてやっつけたもんな!」
あう。あ、あれは食材だから、食材だから、包丁で食材切るのは、武器として使った内にはいりません。
「キリカも見たよ!うんとね、ドラゴンタートの卵も、泡立て器を投げて爆発を回避したのよ!」
ううう、た、卵も食材だから。卵と泡だて器は友達みたいなものだよ。うううう。
っていうか、私……投げてばかりか!
「投擲の名手……」
新たな誤解が発生してるっ!
「クローズ、と、とにかく、そんなわけで、ハンノマさんのすごい武器持ったから安心してね?」
つまようじをポケットに戻してにこっと笑う。
「うん、これで安心した。じゃぁ行こうぜ!」
「どんなモンスターが出るのかな」
キリカちゃんの言葉にドキリと心臓が波打つ。
倒せる……かな。強さじゃなくて、形。二本足歩行のモンスターだったら無理かも……。もふもふ系だったら無理かも……。
食材認定できる生き物か虫……げ、げじげじみたいなものだったらどうしよう……。巨大げじげじ。
「わー、ユーリお姉ちゃんすごいのよ!」
「さすがだ!」
ぱこーん、すこーん。
「そこね!」
ぱこーんっ!
「そうだったんですね。その棒こそが、このダンジョン攻略の肝……。短剣やナイフでは到底無理だとご存知で」
ダイーズ君の関心する声が聞こえる。
「僕は弓で倒すことができても、転がり出た魔石に消失前に触れることはできません。ですが、ユーリさんは……」
はぁ。はぁ。はぁ。
た、楽しい。ちょっと疲れてきたけど……。
「出た!」
ぱこーんっ!
はい。また出た!
すぱーん。
ああ、遅かったか!
ついに、コミカライズ版のハズレポーションが発売になりました!
うわわわ、どうなんだろう、緊張するよね。
腹の立つ旦那が大活躍してるからぜひ手に取ってね!(ヘイトを集めまくっているよ)




