228 ふっわふわ
「なー、ユーリ姉ちゃん、俺たちが土の魔石畑に行ってる間、卵はどうするんだ?」
「あの、セバスティアンさん、鶏小屋に鳥の世話をしにきたときに、卵も回収していただいていいでしょうか?それで、えーっと、小屋に置いておいてもらえるか、食べていただいてもかまいませんので」
セバスティアンさんの目がきらりと輝く。
「食べてもよろしいんですか?」
「ええ。とはいっても、5つも6つもあっても食べきれないかもしれませんが……焼いて塩をかけて食べるか、パンにそれを乗せて食べるか」
と言ったら、セバスティアンさんが立ちあがった。
「このふわっふわ、ふわっふわの作り方を教えていただけませんか?」
はい。気に入ったんですね。
「では、まだ卵があったかと思うので作りながら教えます。お代わりたべられそう?」
「キリカ、お代わり食べる!」
「俺も!」
「僕もいただいてもいいでしょうか」
「私も、食べられます」
はい。全員ですね。
「まず、卵を割ります。力を入れすぎるとぐしゃりとつぶれてしまうので、小さな力から少しずつ力を入れてみてください」
なんとなく、ですね。
S級冒険者のイメージはローファスさんが強すぎて。ローファスさんなら卵を割るんだな!わかった。ぐしゃっ。っていう未来しか見えなくて……。
思わずセバスティアンさんにも注意事項を口にする。
だって、この世界、卵を食べる習慣がないってことは、卵を割ったことがない人ばかりってことだもんね。
「白身と黄身を分けて泡立てることもありますが……」
分けられる気がしないので、一緒でいいでしょう。
「泡だて器で、かき混ぜます」
あれ?泡だて器使える?これは利用者制限あるんだっけ?
菜箸は大きなときは私にしか持てない。小さくなれば他の人も持てた。
泡だて器はダイーズ君が運んできた。つまり、持てる。大丈夫かな?
「やってみますか?」
と、セバスティアンさんに泡だて器を手渡そうとしたら、ばちっと……。
「ああ、私には使えないようですね。これは、おや?ハンノマさんの……なるほど。分かりました。後程ハンノマさんに私にもつかえる設定で泡だて器を作ってもらうとしましょう」
おお、セバスティンさんも自分用の泡だて器を作ってもらうんだ。泡だて器がどんどん広がるといいね。
混ぜて泡立てたあとの説明もして、フライパンで焼くのは、自分の分は各自楽しみながら自分で焼くことに。
「これは、パンを作るほどの時間もかからないですし、いいですな。実に、いいですな」
そうだね。パンは発酵時間が必要だから、待つ時間がいっぱいかかるもんね。
「ふわっふわですな」
食べながらまた同じ感想をセバスティアンさんが漏らす。
「焼く前に砂糖も入れると、甘いものができますよ。それからジャムをつけてもおいしくいただけます。ほかにはフルーツと組み合わせてもいいと思いますし、それから、甘くないものを食事として食べる場合は……」
と、思いついたパンケーキメニューをセバスティアンさんに教えておく。
「それでは、3日に1度は鳥小屋の様子を見に来ますから。ご安心を」
ん?
あれ?私、4,5日に1回とか頼んだんじゃなかった?そんなに頻繁に来てもらうように頼んだっけ?あれ?
「毎日お世話をして差し上げたいのですが、さすがにそれほどリリアンヌ様の元を離れるわけにはまいりませんので……。ああ、こうなると、冒険者に戻るほうが時間に自由が……ぶつぶつ」
いやいやいや、なになに、ふわっふわに魅了されすぎ?
ちょっと不安を覚える。う、うん、だけど、きっと、何回か食べれば飽きるよね?
えーっと、いつか、シフォンケーキを作ってあげよう。そうしよう。パンケーキよりふわっふわなの。
「まぁでも、リリアンヌ様が卵を食べて気を失うところを見るのも楽しいかもしれませんね……それに、ローファスやサーガ様の近くにいるのも面白そうです。ユーリさんたちとも親しくしたいですし……」
あ、思いとどまったようです。
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
セバスティアンさんが干し肉いっぱい積んだ荷馬車で帰っていった。
……とりあえず、鶏の世話も頼めたし、街で必要なものも買ったし、準備は整いました。
明日は、土の魔石畑に出発でしょうか。
「う……これは、無理か……」
荷造りしたら、とんでもない量の荷物になってしまった。
主に、食料品。
多すぎた。欲張りすぎた。
「ああ、大丈夫ですよ。こう見えても僕、力持ちなので」
ひょいっとダイーズくんが、パンパンになった背負い袋……サンタクロースの袋並みの大きさを背負った。ほかにも斜め掛けのカバンを2つ持っている。
「キリカも準備終わったのよ!」
キリカちゃんは斜め掛けのカバン一つ。
「俺も!忘れ物はないと思うぞ!」
ふおう、ふわっふわ食べたいのよ!
 




