223 湿布薬
私の知っている日本でセリとワサビを足したような植物って「ドクゼリ」なのですが……。
毒があるから、セリと間違えちゃだめだよって、誰かに聞いた。
……毒消し草。毒をもって毒を制すとでも言うのだろうか?
怖いですよ。うん、怖いので、バジル+クラーケンの、毒消し効果のあるやつでいいです。干したこにしてあるやつと、粉末にしたバジルがあるので……。
「傷薬は、加工してあるものが使い勝手が良いでしょう。傷薬に使われる薬草を直接傷に充てて使うよりも効果がありますし」
軟膏です。
……料理に仕えそうもありません。がっかり。
他には、ノビルの増血草。……どちらかと言えばハズレ増血草のニンニクが欲しいのですよ……。
「セ、セ、セバスティアンさん、あれ、あれは?あれはなんですか?」
欲しい!
いいもの見つけた!
あれ、絶対、あれだ!おっと、語彙が崩壊!何かは知ってる。日本で何と言うのかは。何にどう使うかも!でも、この世界ではアレはどういう役割なのか……。
「ああ、あれはすりつぶしてパンをふやかしたものなんかと混ぜて布や葉っぱに乗せて患部に貼って使うんですよ」
湿布みたいに使うってこと?
「長年酷使した体にはがたが来るものですから。肩が痛い、腰が痛い、足が痛い、怪我でもないのに痛みがある箇所に使うと楽になるんです」
湿布、湿布だ!
温湿布。そうか!唐辛子の辛み成分カプサイシンとか、温湿布の原料として使われてるものね。
食べても体温上がるけど、皮膚につけると刺激で血行がよくなると聞いたことが。
「お嬢さんたちにはまだ必要ありませんよ。この私でさえ、まだお世話になったことはないのですから」
少し自慢げにセバスティアンさんが笑う。
いやいや、お世話になりたいですっ!
欲しい!唐辛子があれば!ぬか漬け、漬物、そうだ、オリーブオイルやニンニクもあるんだもん。ペペロンチーノにアヒージョも作れる!
……あ、でも、子供たちは辛くて食べられないかなぁ……。今、小屋にいるのは、私とカーツ君とキリカちゃん、それからダイーズ君だけだし。
う、うん、今回は素直に諦めよう。……。
「あのね、この間ローファスさん腰が痛いって言ってたのよ~」
キリカちゃんの発言に、セバスティアンさんが大笑いする。
「ローファス、若いくせにだらしがないですねぇ。買っていきますか?」
セバスティアンさんが唐辛子を手にキリカちゃんに渡した。
ラッキー!
まじか!
やった!
うひょーっ!
小躍りしたいのをぐっと抑え、心の中で語彙崩壊で喜びを表現。あああ、みんなで食べる食事に使うのは我慢して、とりあえず漬物類。これならメイン料理じゃないから。付け合わせ程度のものだから、食べられなくても大丈夫だよね。うん。うん。量もそんなにないからちょうどいいか。
嬉しい。新しい食材ゲットです。唐辛子と言えば香辛料系なので、料理に幅が出ます。胡椒も欲しいな。ないかな。
ギルドの販売部の残りは、食材とは無縁のものでした。
「防水布は持っていくべきでしょうね」
セバスティアンさんが言うには、テントよりも防水布がおすすめだそうだ。
ダンジョン内で休む場合とちがって、ダンジョンの外なら利用できる木などは容易に手に入る。木をいくつか用意して組み立てて防水布で簡易テントを作ればいい。なんせコンパクトになって持ち運びが楽。ふむふむ。
「魔石は各種。現地で料理することはないでしょうから火の魔石はそれほど数はいらないでしょう」
はい。たくさんいる決定。
「水の魔石は必要ですね」
ですね。
「光の魔石は最悪なくても何とかなります。風の魔石や土の魔石は必要ないでしょう」
うん、でも風の魔石は、干し肉そのほか作りに必要なのでたくさん買っていこう。土の魔石は、現地で調達できるはずなのでいりません。
「それから、食料の……ああ、干し肉は買う必要はありませんね。パンがあとあればいいでしょうか」
干し肉とパン…が基本なんだ。やっぱりずいぶん質素だよね。小屋もパンかジャガイモしか自販機から出てこない仕様だったし。
「近くの森で果物が取れれば最高ですが、そうでない場所では……10日もいれば地獄で……いえ、何でもありません」
セバスティアンさん本音が漏れましたよ……、質素な食事に不満があったんですね。ああ、干し肉はまずくて、パンは味気なくて……だったら、うん。10日続くこと想像したら、やっぱりちょっと、めげるかもしれない。お腹が膨れればいいってものではない……。
そういえば……。
「マジックバッグみたいなのはないんですか?」
ファンタジー世界だと割とどの話にも出てくるよね?ダンジョンで手に入るとか、魔法で作れるとか、いろいろだけど。
「なんですか?聞いたことがありませんが?魔法で強度がアップしたカバンのことですか?」
……そうなんだ。セバスティアンさんが聞いたことがないってことは、ないってことだよね?
見た目よりも物がたくさん入って、入ったものの重さを感じない便利なカバン。
確かに、S級冒険者のローファスさんも持ってなさそうだったし。
重たい野菜を背負って畑の上り下りするのを、ブライス君やサーガさんも知ってるから。「マジックバックがあれば楽になる」という情報をポロリと教えてくれそうだけど、それもなかったし。
……あれ?
もしかして……。
いつもありがとう!
湿布薬が、まさかの唐辛子!
口に入れる物認識じゃなかった!
ひゃほーい!何にしても手にはいったのよ!ペッペロンチィィィーーーーノォ!
というわけで、食べたい唐辛子料理を叫んでいいのよ?




