218 鍋
「あのねー、キリカ達、これからちょっと遠くに行くのよ」
ギルド長が頭を抱えた。
「なんということだ。今後入手のめどが立たない上に、すでに冒険者たちがこの品の存在を知ってしまっている。そして、セバスティアン様ご推薦という……これは、とてつもない価値がついても仕方がない……が、とてつもない価値がつけば、この町の冒険者ではそれだけの稼ぎのあるものは……。王都まで運ぼうにも日持ちが……」
と、頭を抱えている。
「あの、氷魔法で凍らせレば凍っている間は日持ちします。それから、えっと、冒険者の携帯食の干し肉というのではなく、普通に食事として使っていただけるので……。薄く切って焼いて食べてもいいですし、パンにはさんで食べてもいいです。あと、スープに切って入れてもおいしくいただけます」
「なんと!」
セバスティアンさんがどこから取り出したのかメモとペンを片手に、かきかき。
後で料理方法メモして渡そうかな。あ、日本語表記になっちゃうけど……鑑定使えないと意味が分からないよね?セバスティアンさんは鑑定魔法使えるのかな?
「分かった。分かった。まいった。10キロ金貨1枚。それ以上はさすがに無理だ」
セバスティアンさんが満足げに頷いた。
10キロ金貨1枚?それ、いくらなの?
金貨1枚っていくらだっけ?
100グラム当たりいくら?松阪牛くらいの値段?さっぱり分からない。
「では、後で取りに来るので、それまでにお願いします。ああ、街で少々買い物をするために頭金としていくらかいただいても?」
と、セバスティアンさんが受付美女から金貨10枚もらって、私に渡してくれました。
「えっと、大金ですよね?」
金貨だもん。大金間違いない。
「そうですね。どこへ買い物に行く予定でしたか?」
「まずはハンノマさんの店に行こうと」
「では、送りましょう」
至れり尽くせりです。申し訳ないです。えっと、小屋に送ってもらったら、何かとっておきの料理を作りましょう。補正値付かないとっておきってあったかな……。ないかも。困った。
「では、後程お迎えに参ります。鐘が3つなったらこちらに来ますので」
と、ハンノマさんのお店の前で手をふって別れた。
「なんじゃ?ダイーズに何か問題でもあったか?」
ハンノマさんは店の受付に座って刃の欠けた剣を眺めていた。
「いえ、えっと、買い物に」
「買い物?今日はなんじゃ?まだ、子供たちの武器は十分使えたはずじゃろう?」
「今日は、私の武器を」
あれ、何か忘れてる。
「アレは、使えんかったか?」
アレ?
そうだった!ダイーズ君から受け取ったんだ!
「ありがとうございます!あの、すごく嬉しいです。役に立つと思います。で、ですけど、その、普通の、普通の武器が欲しいので剣とかナイフでもいいのですが、その……動物を捌いたり、木の枝を切ったりと、普通に使えるものが……」
ハンノマさんが髭をなでなでしながらふむと店の中を見回した。
「確かに、あの武器は武器としてはとてつもない威力を放つだろうが、ちょっとしたことには使いづらいの。どれ、何か見繕ってやろう」
「予算は、これで!」
さっきもらった金貨を取り出す。
「予算?いらんぞ。嬢ちゃんには助けられてばかりじゃからの」
「いえ、そんなわけにはいきません。あの、それはそれ、これはこれで、私もあの泡だて器は嬉しかったので。もらいっぱなしではもう、次に何か作ってほしいと頼むこともできませんっ」
と言ったら、ハンノマさんの目がギラリと光った。
「なんじゃ、何が欲しいんじゃ?作ってもらいたいものというのはなんじゃ?」
ぐいぐいくるハンノマさんの勢いに押されて、いろいろ考えていた欲しいものが出てこない。えっと、何だっけ。
最近作っているときに不便を感じたのは……。
「あ、圧力鍋?」
大量の角煮を作るのに、圧力鍋があれば早くできるのになぁって思ったんだよね。
「圧力鍋とはなんじゃ?」
なんじゃと言われても、そういわれればどういう仕組みだっけ?
「鍋と蓋の隙間をがっちりとふさいで……パッキン、そうゴムを使って水も空気も出ていかないようにして、その状態で加熱して圧力をかけて……。あれ?でも蒸気はある程度抜かないと爆発するから、えーっと、蒸気が出る口は作るとして……あれ?あれ?ご、ごめんなさい、よくわからないですっ」
ハンノマさんが首を傾げる。
そりゃそうだよね。分からない私の言葉じゃ余計に分からないもん。
「空気とはなんじゃ?」
え?そこ?
ご覧いただきありがとうございます。
ツイッターや活動報告で「鍋大喜利」開催しましたが、圧力鍋となりましたー。
……圧力鍋が完成する気がしない……(´・ω・`)
ゴムが役にたちそうでよかったね?ということでいいかしら?




