217 偶然重なっただけ
まさか、まさか、毒なんてないけどっ!
のどを抑えて綺麗な金髪をふわりと振りながら頭を揺らす。
何ごと?
色っぽい吐息が漏れた。……美女は吐息一つで色っぽい……。私が吐いた息は吐息なんて言われないもの。「ため息つくと幸せが逃げるよ」とか言われておしまい。……うぐぐ。
「はぁーん。せ、セバスティアン様、これを、ギルドで買い取れと?」
「そうですよ。もちろん適正価格で。その荷台にある分を」
美女が荷台に積まれたベーコンを見て目を見開いた。
「なるほど。分かりました。少々お待ちください。今まで取り扱ったことのない品だけに、ギルド内での検討が必要となります。その、か、必ず適正価格を割り出し、満足いただける額で買い取らせていただきますから!」
美女の目がギラギラとしている。
「なんだ?どうしたんだ?」
「さっきの話だと、4,5日しか日持ちしないんだろ?」
「だったら干し肉を買ったほうがいいよな?」
「それにしてはなんだか妙な反応だったぞ?」
ひそひそと集まった冒険者たちがあーでもないこーでもないと話始めた。
「あのね、きっとね、すごくおいしくておねーさんびっくりしたのよ」
キリカちゃんがニコニコとして一口大のおーきさにちぎったベーコンを両手に乗せて冒険者に差し出した。
「ユーリお姉ちゃんが作ったのよ」
幼い子供に進められて断られる大人がいようか?否!
ニコニコとしてベーコンを差し出すと、冒険者たちがキリカちゃんからベーコンを受け取った。
「あはは、自慢のお姉ちゃんが作った干し肉か」
「日持ちがしなくても夕飯くらいにはなるかな。少しかってやるか?」
どうやら冒険者さんたちは人がいいみたいでニコニコとしながらベーコンを口に入れる。
「おやおや、キリカちゃんもなかなか策士のようですね」
セバスティアンさんが楽しそうに笑う。
策士?
「何だこれは……」
「うますぎて、意味が分からない。これ、何の肉だ?」
「ふわりと香この風味はなんだ?干し肉より柔らかく、生肉よりも噛み応えがあり……」
「塩味は聞きすぎずちょうどいい。何より、肉のうまみはそのまま残って、さらに放縦な香りで包まれて極上としか言いようが……」
冒険者たちの目が、荷台に向いた。
「さすがセバスティアン様がわざわざ口利きをするだけのことはある……」
「あの一山でどれだけの価値があるのか……」
「俺の稼ぎで買えるだろうか」
ざわざわと騒ぎが大きくなり、ギルドから何があったのかと次々と人が出てくる。
「あのね、美味しいのよ。ユーリお姉ちゃんが作ったの。キリカも手伝ったのよ」
と、引き続きキリカちゃんがベーコンを配る。
美女が老人連れて出てきました。
「これはセバスティアン様、本日は変わった干し肉の買取をご希望ということで」
「はい、どうぞなのよ」
キリカちゃんが老人にもベーコンをすすめる。
「とにかく、ギルド長、私では買取価格をつけかねますので」
「とはいえ、いくら美味しいとはいっても、日持ちもしない干し肉じゃろう?」
ギルド長なんだ、このご老人。
キリカちゃんに手渡されたベーコンを食べる老人。
「あかん、これはあかんやつや……」
え?あかん?買い取ってもらえないってことかな?
「これを作ったのは、そちらのお嬢ちゃんか?」
ギルド長の目が向く。
「定期的にある程度の量を売ってもらうことは可能か?」
え?
それって、買い取ってもらえるってこと?しかも定期的にベーコン売るようになると、私、ベーコン屋さんになるってこと?
「いや。無理ですよ。今回はたまたま、いろいろな状況が重なって、消費期限内に消費できないだけのものが出ただけですから」
セバスティアンさんが私とギルド長の間に入った。
そうでした。
たまたま、ダイーズ君がいっぱい猪取ってきてくれたとか、たまたまポーション畑を離れなくてはいけなくて日持ちしない状態のものしか作れなかったとか。
それからたまたまセバスティアンさんが来て街に売りに行く手伝いをしてくれたとか。
本当にたまたまが色々重なって偶然こうなっているわけで。
「本当か?どうしても無理なのか?」
ギルド長が、セバスティアンさんの体の影から顔を出す。
「はい」
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そう、たまたま、ローファスさんがいなかったからね。ローファスさんがいたら全部食べると言うだろう。そして、ブライス君に躊躇なく氷魔法を使わせるだろう……




