215 ギルドとハローワーク
「あのねー、キリカたちね、指名依頼でね、しばらく別の畑に行くのよ。だから、ここにきてもいないのよー」
そうそう。それも伝えないと。
「なんと!それでは、干し肉を求めて来てもしばらくは手に入らないと……!」
「小屋から好きなだけ持って行ってください。まだ干し足りないものもありますが、続きは持って帰った後干していただけば完成するはずですし……」
「よろしいのですか?流石に、もらいすぎですから、対価をお支払いいたしますっ!そうでなければ、私がリリアンヌ様にお叱りを受けます!」
対価かぁ。うーん。
「あの、セバスティアンさんは、1週間に一度くらい来ることはできますか?私たちが留守の間に動物の世話を頼みたいのですが……」
「動物?」
「というか、鳥なんですけど……」
尻尾ないし、ばれないよね?
「任せてください。それくらいのこと。小屋の清掃と餌やりですか。分かりました。リリアンヌ様もカナリヤを飼っていたことがあり、よく世話をしておりましたから、任せてください」
カナリヤを飼う習慣はあるのか。じゃぁ、鳥を飼うのがおかしなことではないよね。
大丈夫だよね。
てなわけで、まずは完成しているベーコンをダンジョンから取り出し、小屋のテーブルの上に積み上げた。
積み上げた。
積みあがった。
そりゃそうだろう。軽自動車1台分サイズの猪から作ったベーコン。水分抜けて火が通って、多少縮んでいると言っても、積みあがった。
ダンジョンに多少持っていくとしても……このベーコンは日持ちしないバージョンだから、置いて行ったものが返ってきたときに食べられるかどうか怪しいんだよねぇ。
「えっと、セバスティアンさん、どれだけ持っていきますか?好きなだけどうぞ」
「全部と、言いたいところですが」
言っていいんですよ?
「干し肉も持って帰らねばなりませんから、荷台に積めるのはせいぜい半分と言ったところでしょうか」
ってことは、半分残る?腐るよ、困る。どうしよう。
あ、腐ると言えば……。
「えっと、長期間保存はむつかしいので、4,5日で食べてほしいんです。あ、氷魔法で、氷漬けにしておけば大丈夫ですけど……」
「なるほど。了解いたしました。氷魔法の使い手を探しましょう。ですが、4,5日しかもたないということは、残りの煙肉はどうするのですか?」
どうしようね。
「街で売りますか?これだけの質であれば、あっという間に売れてしまうでしょう。ちょうど荷馬車で来ているので、街まで運びましょうか?」
渡りに船!
「お願いします!」
よかったぁ。醤油とか補正効果アイテム使ってなくて。
大した金額にならなくても、食べ物を腐らせるよりましだもんね。
カーツ君とダイーズ君は、新たに増えたダンプサイズ猪の加工のために小屋に残りまして……。
私とキリカちゃんと燻製肉と軽自動車猪の皮とセバスティアンさんで街へ向けて出発です。
「こっちが売る分で、こっちはハンノマさんに持っていく分。それから、これが、私たちのお弁当ね」
と、荷台の上でキリカちゃんと話をする。
「お弁当!」
キリカちゃんの目が輝く。
「ごめんね、キリカちゃん。時間がなかったから、お弁当と言ってもパンに昨日の残りの焼き鳥を挟んだだけなの」
ただし、私とキリカちゃんの分に限り、照り焼きソースをこっそり作って鶏肉に絡めてあります。
セバスティアンさんの分とカーツ君とダイーズ君の分はありません。ハズレポーションのことは内緒内緒。あ、内緒と言えば、鶏の世話は頼んだけど、鶏小屋にまだ案内してなかった。帰ってからでいいか。
あっという間に街につきました。
「売る……って、どこに売ればいいんだろう?」
猪の皮はギルド?肉は肉屋?
「こちらへ」
セバスティアンさんが連れて行ってくれたのは、この世界で初めて来た場所。
ハローワークならぬ、ギルドです。
建物を見上げる。
ドキンドキント心臓が早鐘のように脈打つ。
待って、もしかして、私……。
ハローワークに入ったと思ったらこの世界だった。いえ、このギルドの中だった。
っていうことは、ギルドに入ったら、ハローワークに立っているなんてことがあるかもしれない。
セバスティアンが、急に立ち止まった私に視線を向ける。
「どうかしましたか?」
どうしよう。
もし、次の瞬間ハローワークにいたら……。
いつもありがとうなのです。
次回最終か……なわけもなく。
続きますよー。




