213 うわぁぁぁぁっエンドレスゥゥゥ
ドアを開けると、目に飛び込んできたのは、ダンプカーサイズの猪。
「よく考えましたら、次に分けていただく干し肉の材料が足りないのではないかと……」
にこやかな顔のセバスティアンが立っています。
ああああ……ううううう。
な、泣いて、泣いていいですか?
「おや?これは、これは……」
セバスティアンが、小屋の中、いたるところにつるして干されている肉を見て嬉しそうな顔をする。
「昨日、たくさんお肉が手に入ったのですが、干す場所が足りなくて……」
遠回しに、せっかく持ってきてくれた肉をつるす場所はないよと伝えてみる。
「これは、干し肉用に新しい小屋が必要みたいですね」
は?
新しい小屋?
「すぐに準備しましょう」
待って、違う、そうじゃない、肉は持って帰って?ね?
「材料を集めに街へ行かなければなりませんね。前のお約束では街への往復を頼まれていましたが、行きますか?」
「行きます!」
あ。小屋造りを断りそびれた……。
だって、出かけてる間の鶏小屋の世話のことの相談とか、ローファスさんかブライス君にしたいし。ギルトを通じれば連絡とれないかな?
あと、武器。やっぱり、泡だて器でも包丁でもなくて、武器らしいもの必要かなって。必要だよね?ハンノマさんに相談してみようと思います。
そうだ!それから、もう一つ。
ダンジョンに向かう。入り口で黙々とまだ煙を出している桜の木がある。……ほら、煙がなくなると黒い悪魔がせっかくの燻製肉に……ね?
いったん煙を追い出しダンジョンの中に入り、燻製肉を少し手に取りすぐに出る。煙を再開。
生肉のまま燻製しようかと思ったけど、そもそも猪肉が生で食されるイメージがないので……ほら、豚肉はよく火を通してとかいうし。牛と馬は生でも大丈夫なイメージ?
なので、熱燻という、煙だけでなく加熱もする方法で燻製にした。加熱部分は火の魔石が大活躍。結構長時間温燻したので、いい具合に水分抜けてます。
味はどうだろう?
ぱくん。
「うわ、おいしい。なんで煙っておいしいんだろう。スモークチーズも、スモークサーモンも、スモークすると、美味しくなるねど、煙って不思議。香りが強くて桜の木、様様。……うーん、こうなってくると、いろいろな木の煙で作って食べ比べもしたくなるよね?……こんな大掛かりにスモークできる機会なんてそうそうないだろうし」
そうそうないというか、そうそうしたくない。もうちょっと小規模に、キャンプみたいな感じでスモークはしたい。
スモーク用の箱とか網とか、ハンノマさんに相談してみようか?
ああそうだ。豚肉の燻製ってベーコンなわけだから、ベーコンに似てる。猪肉のベーコンって言えばいい?熱燻だから、ちょっとお肉が堅くなっちゃったけど、十分おいしい。目玉焼きにベーコン……うわぁ、朝食がとても豪華になるよね!むふふふふーん。
「今のは何ですか?」
セバスティアンさんが、いつの間にかダンジョン入り口近くに来ていてる。
「ダンジョンで作っている燻製肉です。味見してみますか?」
すでに私の手に燻製肉はないので、もう一度取りにダンジョンに入らなければならない。
「いいのですか?中で作っているのですね?失礼して」
セバスティアンさんが、煙だらけのダンジョンの中にあっという間に入って行ってしまった。
慌てて風の魔石で中の煙を追い出す。
いや、慌てたけど、煙と一緒にセバスティアンも出てきた。
「げほっ、ごほっ、げほげほげほっ」
ひどくせき込みながら。煙吸ったようです……。
「すごい煙ですな、ごほっ」
「はい。あの、煙で調理するものなので……」
あと、煙がないと、スライムという名前の、黒い悪魔が……カサカサ、ごそごそ、。
やばいやばい。煙を戻しておこう。
「煙で調理ですと?それは初耳です。いったいどんな味が……」
セバスティアンが燻製肉を躊躇もせずに口に入れる。
この世界の人達って、初めて見た食べ物を恐る恐る口に入れるってことはないのだろうか……。私なら、じーっと見て大丈夫かなぁとどんな味なんだろうってちょっと躊躇して、周りの人がおいしそうに食べてるの見てから口に入れるけどなぁ……。
「むぅ、これは……。煙とは、なんと素晴らしい!まさか、煙がこんなにも素晴らしいものとは!」
ですよねー。うん。煙うまい。
「もう一度味見をしても?」
「ええ、もちろんです。たくさんありますから、好きなだけたべてくだ……」
言葉が終わらないうちに、セバスティアンさんは煙が充満したダンジョンの中に……。セバスティアンサーーーーン。
おかしい、なんだろう。一瞬、有能執事セバスティアンさんがローファスさんに見えた。いやいや、S級冒険者の動きは速すぎて私が単についていけないだけだよね?セバスティアンさん元S級冒険者だし。
私の動きがとりいんだ……。ううう。
俊敏性上げるのって、酢だっけ?毎日酢飲もうかな。あ、料理じゃないとだめか。そのまま飲むと駄目か……。体が柔らかくなって血がサラサラになるだけか。
いつもありがとう。
ここで、まさかのセバスティアン……。ま、まさか、この後、同じようにドヤ顔して猪持ってこないよな?ローファス……空気読め。あ、これ、前フリじゃないよ?
な、落ち着け、落ち着くんだ、何?
もっと大きな猪を俺は狩ってくるって、対抗心燃やさないのっ!




