207 獣臭くなるというのは
「あのね、キリカはママがいないのよ。ダイーズお兄ちゃんはお父さんがいないのね」
そうだ。
この世界は日本と違う。
医療も日本ほど発達していないし、安全も空気のように当たり前ではない。
「カーツお兄ちゃんは、お父さんもお母さんもいないのよ」
……って、よく考えたら……。
私もお父さんは幼いころ。女で一つで育ててくれた母も成人するかしないかの時に亡くしている。
「あの、それで、村の人はどれくらいいたの?ダイーズ君が村を離れても大丈夫なの?」
「村には80人くらいかなぁ」
なるほど、80人がおなか一杯……食べるにしても、軽自動車3台分の肉は多すぎない?
「ハンノマさんが色々良くしてくれたんだ。冒険者になって、お金を稼いでそのお金で食料を買うこともできるって教えてくれた。あと、猪の毛皮とか今まで使い道がなかったものも売れるって教えてくれて……」
なるほど。
って、あれ?猪の皮って、そういえばどうしてたっけ?
「……えっと、80人の3日分の肉……どうしましょう……」
ダイーズ君の顔が青ざめた。
はい。気が付きましたね。
「干し肉にすればいいんじゃないか?」
いつの間にか来たカーツ君が提案する。
「あのね、キリカね、角煮の干し肉がいいのっ!」
と、キリカちゃんが手を挙げた。
ふふふ、残念なお知らせがありますよ。
「干し肉作ってる小屋に入りきらないよね……」
ちらりと小屋を見る。
風の魔石で効率的に乾燥させる小屋だ。
「うわ、そうか!じゃぁ、外に干すしかないか?」
えーっと、外に干して安全性とか大丈夫なのかなぁ……。うまくできるかどうかも分からない。
天日が当たらないようにしたほうがいいって話だし。
「角煮にしようにも、鍋が足りないかな……少しはできると思うけど……」
キリカちゃんががっかりする。
たぶん、炊き出し用のでかい鍋でも無理だよ。軽自動車サイズの猪を全部角煮にするの……。
「す、すいません、あの、僕、頑張って食べます……」
いや、無理でしょう、さすがに……頑張るにもほどがある。
「えっと、なんか方法がないか考えるからね?大丈夫。ダイーズ君、ほら、まずは解体を頑張って?」
肉にならないとその先ができない。
私はとりあえずみんなが猪をさばいている間に、野菜を干す。
……野菜は天日でもいいか。小屋は干し肉に譲ろう。
天日に充てるとビタミンDが増えるんだったっけ?野菜はうまみを増すはずだし。
それから、鍋類の確認。
一番大きな二つを使うとする。
角煮……えーっと、じっくり煮込みたいところだけど、とりあえず味が染みればいいか。というわけで、3時間がベストなんだけど、1時間で作ろう。
1時間でワンセット。寝るまでにとりあえず5セットくらいできるだろうか?
それでもなぁ……鍋を見て、小屋の外の猪を思い出す。
うん、あとは塩もみこんだだけのものか。仕方がない。
それから、塩と醤油と酒とみりんと酢に漬け込んだだけのものも作ろうか。
それにしても、干す場所がないよね……。
うーん。ひらめいた!
「ダイーズ君、今日は小屋に泊まるでしょう?」
「え?あ、そういえば、まだ出発しないなら……泊めていただけるなら、えっと、床でもどこでも……」
床って……。
「キリカちゃん、あとで部屋のこと教えてあげてね」
「うん、分かったの!」
「でね、私とキリカちゃんとカーツ君とダイーズ君が使う部屋以外って、空いてるでしょ?だからさ、そこに風の魔石置いて干し肉作れないかなって思うんだけど?」
「おお、いいんじゃないか?ユーリ姉ちゃんさすがだな!」
部屋で肉干しても誰も怒らないよね?
主人みたいにみっともないとかいう人いないよね?
「でも、大丈夫かな?心配なの」
キリカちゃんの顔が曇る。
「え?心配?えっと、部屋を使うのが?」
いつもありがとうなの!
小屋の中に干すことにしたの。
でも、キリカ心配なのよ……だって、だって、




