206 ダイーズ君の能力
さてさてと。長期保存もできる携帯食用の干飯と、中期保存むきの干し野菜つくって、それから短期保存のフリカケとか醤油漬けとか。
あれ?漬物ならもうちょっと保存できるよね?……塩あるし、よぉーし、漬物作っちゃえ!……まぁ、出発までにはできないだろうけど。
あ、漬物と言えば、米を精米したときの糠がある。ぬか漬け!
ああ、でも、風味付けの昆布とか鰹節や煮干しや干ししいたけがない……。いや、なくてもちょっと味気ないのは仕方がないとしても……。
腐敗防止の唐辛子がないのは辛い。
って、そうだった。今から出かけるのに、ぬか床混ぜられないのに作ってどうする!帰ってから。いや、唐辛子が見つかってからのお楽しみにしておこう!
ってなわけで、今回は単純な
塩漬け。はい、鷹の爪……唐辛子や昆布のないやつです。
あれ?待てよ?
塩と、糠と……それから砂糖もあるとなれば……。
「あれが作れる!作ってみたかったけど、レシピを調べたら、材料が10キロとかすごい単位で……。
一番少なくても、1キロとか2キロとか……。作っても、主人と私の二人では消費しきれないと思って断念。
そもそも、みっともないから野菜とかベランダで干したりするなと主人は言っていた。
みっともないどころか、かっこいいって思ってたことは主人には言えなかった。かっこいいよね。いろいろ作れるの。
だから、こっそり主人が仕事に言っている間にベランダに干しちゃおうかなぁなんて……。
「あー、今なら、こっそりしなくてもいいんだ!思いっきり野菜が干せる!干して、干して、干しまくるぞー!」
ふふ、楽しい。
楽しい、楽しい!出来上がるのが楽しみだし、こうして野菜を刻むのが楽しい。
あ、アレは乾燥のあと漬け込むから、土の魔石畑から帰ってから作ったほうがいいか。乾燥しすぎてもだめだし。
さて、干そう。
「は?」
思わず目をごしごしとこする。
私、これ、見間違えてないよね?
えーっと、軽自動車くらいありそうな猪っぽい獣を、ダイーズ君がひょいっと肩に担いで現れました。
それでもって、それを片腕で持ち上げてぽいっと、投げます。
投げた先には、同サイズの猪が二匹。
つまり、3匹の軽自動車サイズのイノシシが……どーんと。
絶句。
ダイーズ君が力持ちだということにも驚いたけど、それよりも……。
「ダイーズ君、これ、どうするの?」
猪なのに牛よりも像よりも大きいっていうのはこの際置いといて。異世界の生物なんだから、不思議なこともあるだろう。
……ほら、タコとかめっちゃでかかったし。あ、あれはモンスターか。
……ん?もしかして、この巨大猪もモンスターとか?ってことは、ないよね?
「ああ、ユーリさん。今から、猪のさばき方をみんなで練習するんですよ。見ながら実際に作業して覚えてもらおうかと」
「そうなんだ。だから、3匹なのね……」
3匹の理由は分かった。分かったけど……。
ちょっとため息が出ます。
「あ!ごめんなさい!」
ため息を出したのを見て、ダイーズ君が謝った。
いえ、いいんですよ、はい。ダイーズ君も考えて3匹の猪を狩ったんでしょうからね?
「ユーリさんも一緒にやりますか?そうですよね。……あの、僕、もう1頭飼ってきますっ!」
そうだ。このサイズの猪は、匹でなく頭で数えたほうがよさそうだ。って、そうじゃなくて!
「まって、ダイーズ君っ!」
何、肉まんもう一つ買ってきます!みたいな気安さで、もう1頭猪を狩ってきますとか言ってるのっ!
そうじゃない、そうじゃない、そうじゃない!
「え?」
なけなしの反射神経使って、ダイーズ君の服の端をつかむことに成功。
「えっと、私がため息をついた理由は、私たち4人しかいないのに、こんな大きな猪の肉、食べきれないと思ったからで……」
もしかして、ダイーズくんはこのサイズの猪とかぺろりと食べちゃうんだろうか?
軽自動車サイズだよ?
ダイーズ君がはっと、口元を抑えた。
「そうでした。ここは僕の住んでた村じゃなかった……」
ん?ダイーズ君の村は大食い一族なのかな?
「いつも、村人全員がおなか一杯になるように狩りをしていたから……」
「村人全員がおなか一杯?」
どういうことだろうか?
「はい。その、狩りができる人間が村には少なくて……だから、えっと……」
そういえば、住んでいた村には子供が少ないと言っていた。子供が少ないということは、親の世代も少ないということでいいのかな?
それにしても……。
「お父さんは?」
「亡くなりました」
悪いことを聞いてしまったと、一瞬謝ろうと思ったけれど、すぐにキリカちゃんの言葉で我に返る。
こんにちは。
ダイーズ君がやらかしました。
真面目なのに真面目にやらかします。いるよね、こういう人……(≧▽≦)
がんばれダイーズ君。むふふ
大量の肉をどうする!




