22 危険
「あ、いや、無事ならいいんだ……」
ローファスさんがほーっと息を吐き出してふらつく足取りでテーブルの開いている席に座った。
「でも、S級冒険者のローファスさんが息を切らすなんてよっぽどのことがあったのでは?」
「中級ダンジョンに着いたら、ポーション畑でずっと煙が上がっていると聞いてな……」
え?それって、心配して駆けつけてくれたってこと?
乱れた髪の毛を整えるように、額に落ちた髪をローファスさんがかきあげた。
目には安堵の光。息を整えるように呼吸しながらも、口元は嬉しそうに口角が上がっている。
「さすがローファスさんっ!中級ダンジョンからここまで数時間で駆けつけられるなんてすごいっ!」
カーツ君の目が輝く。
「さすがにちょっと疲れたな」
疲れたと言いつつも、カーツ君の賛辞に悪い気はしていないようだ。
「すいません、心配をおかけして。肉の燻製を作ってた煙です」
ブライス君が頭を下げた。
「燻製?そういえば、これはどうしたんだ?」
少し落ち着いたのか、ローファスさんがテーブルに並んだ料理を見た。
「あのね、あのね、ユーリお姉ちゃんが料理をしてくれたのっ!」
キリカちゃんの言葉にローファスさんが私を見た。
皿に角煮をよそい、フォークと一緒にローファスさんに手渡す。
「違うわ。私じゃなくて、みんなで作ったんですよ。よかったらどうぞ」
「あ、ああ、ありがとう。見たことのない料理ばかりだな。そうか、皆で作ったのか」
ローファスさんが豚の角煮にフォークを突き立てた。
「うわっ、これ、肉だろう?柔らかいな!」
フォークが角煮を貫いて皿をカチンと鳴らす。
「ふっ、カーツ君も同じこと言ってました」
音を立てるところまで同じ。まるで似たもの親子みたいでおかしくなった。
「旨い」
角煮を一口で食べ、すぐに顔全体で美味しいって言ってくれる。
うれしい。
「もっともらっていいか?」
「もちろんです」
「ローファスさん、パンの代わりに”まずい麦”と一緒に食べてください」
ブライス君が別の皿にご飯を乗せて差し出した。
「まずい麦?もしかして、もうパンもじゃが芋もストックがなくなったか?すまん、急いで補充するよ」
ローファスさんが申し訳なさそうな顔をする。
「ううん、まだあるよ。あるけど、まずい麦の方がおいしいんだ」
ローファスさんが、カーツ君の言葉にご飯に視線を落とす。
「そういえば、変わった食べ方だな?パンにしなけりゃうまく食べれるってことか?」
ローファスさんがフォークでご飯をすくって口に入れる。
「なるほど。不思議な食べ物だが、確かにまずくはない。いや、汁かけたら確かにうまいな!」
角煮の汁をご飯にかけてローファスさんは食べた。牛丼屋行ったらつゆだくにするタイプか!
あ、牛丼も作れそうだなぁ。うん、牛肉っぽいもの手に入ったら作ろう。ワインとかあるのかな?あったら料理酒でもいいけどワインで作りたいな。
と、そこから先はローファスさんは口を開くことなくご飯を盛り、汁をかけ、角煮をほおばり、むしゃむしゃひたすら食べだした。
「あー、無くなる、ローファスさんキリカもまだ食べるの!」
「すまんすまん、あんまりおいしくてついな……あれ?」
ローファスさんが首を横に小さく振った。
「えっと、どうしたんですか?」
「ポーションも飲んでないのに、ずいぶん体力が回復したような気がして」
ああ、そんなことか。
「ポーション入ってますよ?この料理にはポーションを味付けに使ってあります」
「何だって?」
ガタンとローファスさんが音を立てて立ち上がった。
「一体どれだけポーションを使ったんだ、食べるな、皆。ユーリは知らないかもしれないが、ポーションの過剰摂取は体に毒なんだ」
「え?本当に、ご、ごめんなさい、知らなくて……」
なんてこと!




