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「ねー、回してみて、ユーリお姉ちゃん」
キリカちゃんの目がキラキラ。
カーツ君とダイーズ君も期待に満ちた目で泡立て鬼……と化した巨大泡だて器を見ている。
絵の部分を持って、前後に動く部分を動かす。
ぐるんっ、ぐるんっ、ぐるんっ。
右回りー、左回りー、右回りー、と、刃の部分が高速回転。
うわー、これ、卵の泡立て楽になりそー。……普通サイズの時ならば……。
「すごい……どんな強いモンスターを想定した武器なんだろう」
ダイーズ君、想定しているのは、卵です。
あるのであれば、生クリームもいいなぁ。
「牛……」
いないかな。
生クリーム食べたいなぁ。
「牛?それはどんなモンスターですか?」
いや、モンスターじゃないよ。
「えっと、モーって鳴いて、頭に角があって、ミルクを出す……ので有名なのは白地に黒の模様で、美味しいのは黒とか……」
和牛とホルスタインを想像しながら答える。
「モー?白黒?黒?角?うーん、もしかして混じってますか?覚えられないですよね。僕も、いまだにどれがどれかよくわからなくて」
は?
混じって?
えーっと、ホルスタインと和牛は混じらないけど。あ、角?角あるのって雄だけ?ミルクは雌だけ?おや?確かにあんまり考えたことなかったなぁ。「牛」っていうだけで……。
「ミノタウルスと、ミノタウレスと、ミノタウロスって名前が似てるから、どれがどれだったか分からなくなりますよね」
はぁ?
ミノ……?
ミノって牛の第一胃袋のことでしょ?おいしいよね。ミノ。ホルモン系も好きなんだよね。
内臓系って……処理がめんどくさくてうまく処理しないと臭くて食べられないから昔は捨てられてたらしいんだよね。
はー、焼肉食べたいなぁ。ああ、焼肉のたれがないんだ。
焼肉のたれって、何を混ぜたらそれっぽい味にできたかなぁ。思考錯誤するしかない?なんとなくりんごは使えそうだ。あとは……
「うわー、これ、おいしいのよ!キリカ好き!」
ん?
「ユーリお姉ちゃん、これ、お代わりしたいのよ!」
キリカちゃんがコップに入っていたリンゴ水はちみつ入りバージョンを飲んで顔をほころばせた。
「うんめぇ!はちみつ入ってるんだよな!」
ダイーズ君が首を傾げた。
「はちみつ?このあたりにもジャイアントビーが出るんですか?村では、森の中の入っちゃダメな場所にしか出ませんでしたが……」
ジャイアントビー?
名前からして、でかい蜂?入っちゃダメな場所?
「あのね、このはちみつはもらったものなのよー。うんと、お礼?」
「そうそう、この間のスタンピードんときに手伝ったお礼でもらったんだ。だから特別だ。うまいからダイーズ兄ちゃんも飲めよ」
カーツ君の言葉に、ダイーズ君がごくりとリンゴ水を飲む。
「本当だ、美味しい。はちみつを溶かしただけじゃないんですね。なんかの香りと味がする」
「リンゴよ。あ、そうそう。そろそろこのリンゴ水を使った中身が焼けるころね」
リンゴを薄切りにしてパンにのせて、砂糖をふって焼いていたのだ。
なんちゃってリンゴパイ。……全然パイ要素はないけど。リンゴパンだけど。
「はいどうぞ」
大皿にドンっと乗せてテーブルに置く。
「いただきまぁ……あ、駄目なの!まだ手を洗ってなかったのよ!ダイーズお兄ちゃん、食べる前に手をきれいにするのよ!」
ふふ。
いつものキリカちゃんの指導が入りました。
「あ、はい。そちらを使わせてもらってもいいですか?」
ダイーズ君がわざわざ断りを入れて手を洗う。うん、本当にいい子です。
あ、もちろんみんないい子だけど。
「いただきまーす」
みんなでぱくぱくと食べ始める。
「うめー」
「おいしいのよ!」
「はー、シナモンが欲しいけど、なくてもこれはこれでおいしいかも!」
あれ?
「ダイーズ君もどうぞ」
「あ、はい、いただきます」
パクンと食べて、ダイーズ君の目が見開いた。
いつもありがと。
たった、たった、クララじゃなくて、フラグが立った。
牛肉~
ははははは。どれをどうするか。
ミノタウロス
ミノタウルス
ミノタウレス
ロスが雄っぽいな。レスが雌っぽい。じゃぁ、ルスはおねぇか?




