196 大豆ぅ
「だなー。てなわけで、その依頼、俺たち3人が受けてもいいかな?」
ハンノマさんが頷いた。
「渡りに船じゃな。ハズレ魔石など何に使うのかと聞かれるよりも、初めから何に使うか知っている人間に頼めるならありがたい。ギルドを通しての依頼料は上乗せできないが、お礼はするぞ。ギルドには冒険者見習い3人と冒険者1人で指名依頼しておくかの」
キリカちゃんが声を上げる。
「指名依頼なんてすごいのよ!」
「すまんなぁ。本来、指名依頼をされるのは名誉なことじゃが、今回はギルドにも依頼料が安いから受けてくれる人間が他に見つかりそうにないから知り合いの冒険者見習いと冒険者に頼んだと事情を説明することになると思うんじゃ」
カーツ君が頷いた。
「うん、それって、実力を評価されての指名依頼じゃないから、冒険者評価が加算されないってことだろ?」
冒険者評価?
加算?
「でも、ハンノマさんが信用してる人物だって思われるんだ。冒険者評価は加算されないかもしれないけど、人の評価は上がるよきっと」
「そうなの。ハンノマさんいい人なの。いい人と知り合いなのはいいことなのよ!」
ハンノマさんが楽しそうに笑い出した。
「ははははっ。お前たちはいい子じゃなぁ。ワシがいい人か。ワシに信用されるのがいいことじゃと?うむ、うむ。ワシは単に偏屈で頑固なドワーフの鍛冶師なんじゃがなぁ。はははは。うん、よし。今度また体が大きくなったら体に合わせた武器を作ってやるぞ!」
うん。なんか冒険者の色々はよくわからないけど、カーツ君もキリカちゃんもハンノマさんもみんな笑顔だから、きっと何にも悪いことなんてないんだよね。
「ねー、冒険者は誰を指名するの?」
「そうじゃな。お前たちと親しいのはローファスの坊主だろう。流石にS級冒険者を指名依頼したんじゃ不審がられるからなぁ。ハズレ魔石回収のための初級ダンジョンよりも簡単な土の魔法石畑にS級冒険者はなぁ……お前たちの知り合いで冒険者はいないか?」
「ブライスお兄ちゃんがいるのよ!この間冒険者になったのよ!」
「ふむ、ブライスか。この間冒険者になったってことはF級か?それともEかDにすでに昇級しておったりするのか?」
ハンノマさんの口ぶりだと、F級からEやDにトントンと昇級する人は珍しくないのかな?
「うーんと、D級になって、スタンピードで活躍したから」
「あのね、ローファスさんがB級にしてもらうって言ってた」
ハンノマさんの口があんぐり空いた。
「は?この間冒険者になった人間が、B級じゃと?お前たちの言うこの間というのは、ワシの考えているこの間とは違うんじゃろか?」
うん。やっぱり、ブライス君は特別らしい。
「とにかく、今回の依頼で不自然じゃないのはF級かE級の冒険者じゃな。B級では不自然じゃ」
そっか。っていうことは……。
「俺たち他に冒険者の知り合いなんていないぞ?」
「ふむ。……おお、そうじゃ。ワシの知り合いに冒険者になりたての子が1人おる。いい子だし、お前たちとも年が近いし、ちょうどいいじゃろう。ダイーズというんじゃ」
「だ、大豆ぅ?!」
思わず大きな声が出た。
「ん?ダイーズと知り合いか?」
ダイーズ?
え?大豆じゃなくて、ダイーズ……。
「あ、いえ、聞き間違えました。知っている名前と似てた……ので……」
「そうか。そうじゃろうな。ダイーズは村を出たことがなさそうだったからの。嬢ちゃんと知り合いなはずは無かろう。まぁ、そういうことで、4人で土の魔法石畑ダンジョンでハズレ魔石回収を頼むぞ。ゴムの開発はまだ先は長いからな。ゆっくりで構わないぞ。ダイーズには小屋に来させるからな。4人揃ったら出発してくれ」
ダイーズ君か。どんな子だろう。
……あ、ホットケーキ冷めちゃった。まぁいいか。覚めても美味しいよ。ケーキみたいで。
「ユーリお姉ちゃん、この柔らかいパンとっても美味しいのよ」
「わー、何だこれ!雲を食べてるみたいだ。ふわふわでうめぇ」
「こ、これは……何という……潰さずに切るのは至難の業じゃ……むぅ。師匠と言えど、これほど柔らかいパンをスパッと切れるナイフを作り出すのは難しかろう……」
ハンノマさんの感想は、味より前に色々あるようで……。
「ワシは蜂蜜が少な目が好みじゃ。嬢ちゃん、これ、何といったかのぉ。どこに売っとるんじゃ?」
味には満足してもらえたみたいです。
「キリカは蜂蜜一杯がいいの!でも、蜂蜜なしでも美味しいのよ」
とろけるような笑顔をキリカちゃんが見せた。
「噛み応えがないから、ご飯食べた気がしないけど、これがデザートっていうもんなんだなうめぇ。食べた気がしないのに満足する食べ物。マジうめぇ」
あ、なるほど。食事って、よく噛みましょうが基本だもんね。1口30回とか。メレンゲ使ったホットケーキはフワフワで噛まなくても食べられちゃいます。
「はー、美味しい……。なんの蜂蜜だろう。蓮華よりも、棘がなくてまろやかで、少し柑橘類っぽい香りがする」
と、しっかり味わい、ハンノマさんも片づけを手伝ってくれて、小屋を出て行きました。
「じゃ、ダイーズが来たらよろしく頼むぞ」
ん?
何か忘れているような?
「忘れておったわい!あんまり夕飯がうますぎて……」
しばらくしたらハンノマさんが戻ってきました。
「ゴムに混ぜるものを教えてもらうんじゃった」
そうでした。はい。
硫黄と炭。分かる限りのことを教えました。
それから数日。
「初めまして。ダイーズと言います」
ご覧いただきありがとうございます。
前回お伝えした通り、ここで一区切り。しばらく更新お休みします。
ダイーズ君含めたダンジョン攻略編へと続きますが、ツギクル版が追い付いてからとなります。
てなわけで、ダイーズ君の人となりは番外編にてご確認を!




