191 命中率ががが
「もう時間もありませんし、予定を変更して今から街へ戻りますから……」
あそうか。本当はこの先に進むつもりだったけれど、会いたい人がいないって知って戻ることにしたんだよね。
「では、少々お待ちください」
急いで食糧庫に保存してある角煮の干し肉を籐籠に入れて持って行く。
「こんなにあるんですの?」
リリアンヌ様のお目目がキラキラ。
「代金をお支払いいたします」
セバスティアンが財布を取り出す。
「いえ、送っていただいたお礼ですので必要ありません」
と断ったんだけど、
「そう言うわけにはいきませんわ。それに……また、ぜひお譲りしていただきたいもの。その時にタダでというわけにはいきませんでしょう?ですから今日からきちんと代金はお支払いいたしますわ」
といっても、料金設定はよくわからないんだけど……。
どうしよう。
カーツ君の顔を見る。
「なぁ、また譲ってほしいって、干し肉を買いにくるってことか?」
カーツ君の言葉に、リリアンヌ様が笑いかけた。
「そうですわ。私自身は、そう何度も屋敷を離れる分けには行きませんので、誰か使いの者を立てて――」
「私が来ますよ。顔を知っていたものが来た方が安心できるでしょう」
セバスディアンの言葉に、カーツ君が話を続ける。
「だったらさ、買いに来た時に、街に連れてってくれないか?俺たちの足じゃ、買い物して帰るにはちょっと大変で……」
「ああ、もちろん構いませんよ」
セバスティアンの返事を聞いて、カーツ君が私の顔を見た。
「なぁユーリ姉ちゃん、街に連れて行ってもらうお礼ってことで干し肉渡せばいいよな?」
カーツ君賢い!
「うん。そうね。リリアンヌ様、セバスティアンさん、そういうことで、えっと、街への送迎のお礼ということで干し肉をお持ちください」
これで、街に行く足もゲットできるね。
「いや、流石に、このレベルの干し肉では、私たちが得をしすぎる……」
キリカちゃんがセバスティアンの服を引っ張った。
「あのね、働かざる者食うべからずなのよー。だからね、えっと、干し肉を作るお手伝いをすれば干し肉食べてもいいのよ」
え?キリカちゃん、だめだよ、作るところは見せると、補正値のあれやこれや……。
「ああそうだな!俺たちだと猪を狩るのが大変だから、えっと、干し肉を取りに来た時に、猪を狩ってもらえると助かるんだ」
セバスティアンがほほ笑んだ。
「それはお安い御用ですよ。分かりました。そう致しましょう」
なるほど。
そう言われれば干し肉を作ろうにも、材料となる豚肉……いや、猪肉が手に入らなくちゃできないんだ。せっかく取りに来てもらったのになかったら申し訳ないもんね。
そうか。次回分として猪を狩ってもらえば一石二鳥ってうの?
「では、さっそく」
大地を蹴って飛び上がるセバスティアン。
うわ、地面に穴が。
どんだけ蹴りだす足の力が強いんだろう……。
「待ちなさい、セバスティアンっ!」
なぜか、追いかけるリリアンヌ様。ん?細い剣を抜いた。
そして、5分で戻ってくるセバスティアン。背には猪。
「少々小さいですが、これでお願いいたします」
すごい。見つけるだけでも大変そうなのに……。それをさっと仕留めて戻ってくるなんて……。
元S級冒険者だけのことはある……。
「はい。なぜか今日は魔法の命中率がすごく高くて」
少し遅れて戻ってきたリリアンヌ様の手には2匹の兎。
「おや、本当にリリアンヌ様は今日はとても調子がよろしいようですね」
細い剣を持っていたのに魔法?
調子がいい?
「そうなのよ。私の魔法はコントロールが悪くて当たらないから、足止めくらいにしか使えないんだけれど、なぜか今日は狙った獲物に当たって、レイピアの出番がなかったわ」
細い剣はレイピアっていうんですね……。
……と、現実逃避してみる。
コントロールって……。
命中率が上がっているっていうことですよね……。
普段よりどれくらい上がった感じがしているか知りませんが、明らかにクッキーの補正効果……。
まだ、少し効果が残っていたんですね……。オリーブオイルの補正効果が……。危ない危ない。
命中率100%とかだったら、確実に体感で調子がいいレベルじゃなくて何か原因があると思いますよね。
いつもありがとうですです。
さて、気が付けば12月……。
あと1週間もすれば……