190 噂の小屋
「これは……長年冒険者をしていて、干し肉にはお世話になってきたけれど……」
はい、さっきも聞きました。
「ここまでうまい干し肉ははじめてだ!この干し肉があれば、私は、あと30年は冒険者を続けられた!」
え?
あと30年?
いや、それより、干し肉がまさか……食べたくなくて冒険者やめたの?
そんなはずないよね?……?
S級冒険者だったんだよね?
「え?うまい?ですって?」
リリアンヌ様があんぐりと口を開いている。
「私も、はじめて干し肉を食べたときには、獣臭いというか生臭くてびっくりしたんですが、ちゃんと味を調えて作れば大丈夫なんです」
ブライス君にもらって少し齧った干し肉の味を思い出して酸っぱいものがせりあがりそうになった。
うん、あの時の自分、よく頑張って飲み込んだ。
「そうです。私も冒険者時代には、お金が稼げるようになったらおいしいと言われる干し肉を高くても買う用にしていましたが……ですが、ここまでうまい干し肉ははじめてです」
おいしいと言われる干し肉が気になる。塩があればよかったとか言っていたけど、塩は使うんだよね?きっと。
香辛料は?ハーブは?どんな味付けなんだろう。
角煮干し肉の補正効果は、日にちが立っているからもうないはずだから、大丈夫だよね。うん。
「だろ、ユーリ姉ちゃんが作った干し肉美味いよなー。小腹空いたときにちょっとかじるだけで幸せな気分になるんだ」
「分かりますよ、これは幸せになる味だ」
と、カーツ君とセバスティアンさんが頷きあっている。
「わ、分かりませんわ!私には干し肉で幸せな気分になる気持ちが!分かりません……」
「食べたら分かるよ」
カーツ君が二カッとわらって、干し肉をリリアンヌ様に差し出した。
リリアンヌ様は、今度はセバスティアンさんに渡さずに、恐る恐る自分の口に入れる。
って、待って、魔法、魔法忘れてませんか?
「リリアンヌ様、浄化と、解毒と……!」
と声をかけるのが一歩遅く、リリアンヌ様は……。
倒れた。
「リリアンヌ様ー!!」
「私が先に食べていましたから。毒見役になってますから大丈夫ですよ」
大丈夫ですよってセバスティアンさんが言うけど、……、けど……!
「はぁー、ビックリした。」
むくりと、リリアンヌ様が起き上がる。
「これ、本当に干し肉ですの?信じられませんわ!この私が気絶するほど美味しい干し肉が世の中にあっただなんて……」
あ、大丈夫だった。
「この干し肉は……どうやって作るんですの?」
ギクッ。
ハズレポーションのことは内緒だ。やばい。
「えーっと、秘伝のタレにつけて……」
秘伝のタレなんて、鰻か!ヤキトリか!焼肉か!この世界で通じるのか……。私ってば、もう少しうまい言い訳できないのかな……。
「そう、秘伝の……それは教えていただくわけにはいきませんわね……」
ほっ。
「秘伝のタレを譲っていただくことはできませんの?」
う、そう来たか。
「あのねー、秘密なの。ないしょなのよ」
キリカちゃんが助け舟を出してくれる。
「あの、手に入りにくい材料があって、タレは大量には作れないものなので……その……。干し肉でしたらお譲りできますが」
どれくらい角煮干し肉あったかな?また作ればいいから全部渡しても問題ないよね。
「それは本当ですの?」
リリアンヌ様の目がキラリ。
「それでしたら、ぜひ私にも!」
セバスティアンさんの目もキラリ。
おっと、リリアンヌ様とセバスティアンさんの視線が激突する。うーん。仲良くしてね。
というわけで、お茶を終えて小屋に戻った。
はー。懐かしい。
いや、ほんの半日離れていただけなのに、なんだろう、このなつかしさ。
「まぁ!これが、噂の小屋かしら?」
リリアンヌ様が小屋に着くと、興味深そうにきょろきょろとあたりをみまわしている。
「どうぞ」
小屋の中に案内しようとしたのだけれど、首を横に振る。
ご覧いただきありがとうございます。
リリアンヌ様……誰が何の噂をしていた小屋なんだろうね?
ふふふ。謎めいております。(あ、こら、ネタバレ禁止!……ってむなしいなぁ。ツギクル版読んでくださっている方にはバレバレの謎であった……オロオロ)