閑話 日本では
*要注意*
「ただいま」
もう一度、今度は大きな声で家の中に声をかける。
「ああ?おまえか……」
薄汚れてくたびれた男が出てきた。
「お……親父」
まるで駅前の路上に寝泊まりしている人間のようななりをした目の前の男の顔は、確かに親父のものだ。
いったいどうしたというんだ?
家にいても、いつも洗濯したての服を着ていた親父が。
髪も解かず、髭も伸ばして……服は、何日同じものを着ているのか分からないような状態だ。
「まぁ、はいれ、ちょっと汚れてるがな」
ちょっと?
廊下はかろうじて通れるが、左右にはものがいろいろと置かれている。
新聞……。取り込んだまま開かれもしない新聞が山となっている。
「おふくろは?」
一番気になっていたことを聞いてみる。
「ん?あ、ああ、母さんは、旅行に行っている」
「旅行?親父1人を家に置いて、おふくろが?」
なんて無責任な。
いったい何日旅行に行っているのかしらないが、家に残った父さんが困らないように準備して出るものじゃないのか?新聞にしても、読まないと分かれば旅行に行く間止めることができたはずだ。
食事はどうしているのか?
作り置きして冷凍してあるのか?
さすがに父さんも電子レンジは使えるようになったんだよな?
と、台所へ足を運べばひどい惨状だった。冷蔵庫の中は……いつから入れられているのか分からない液体になった野菜。
消費期限を見れば、すでに1か月は切れている牛乳。
「ん?ああ。私も定年したことだしな」
「は?父さんは腹が立たないのか?仕事をやめたとたん、お袋は父さんの面倒を見ずに1人で旅行なんて」
親父はうつろな目をしている。
「うん、そうだな。一人で旅行に出すんじゃなかったな……一緒に行けたらよかったんだが……」
「もしかして、父さん、どこか体の調子が悪いのか?」
なのにそんな父さんを一人で置いて旅行?
完璧な母親だと思っていたのに……。ひどいじゃないか?
「で、お前は何しに来たんだ?母さんに用事があるなら、いつ帰ってくるか分からないぞ?」
ああそうだった。
たまには美味しいものが食べたくて帰ってきたんだ。
お袋が家にいないなら、父さんだけなら来ても仕方がない。
「近くまで来たから顔を見せにきただけだ。じゃあ、もう帰るよ」
「そうか……」
かわいそうな父さん。
お袋は何を考えているんだ!
畜生。あんな親父の姿は見たくない。
そうだ。あいつが帰ってきたら、実家の掃除をさせに行かそう。週に2回は実家に行って親父の世話をするように言おう。
お袋が旅行に行っている間だけだ。週に2回くらい実家の手伝いに行ったって、俺の面倒も見られるだろうからな。
いつもありがとうございます。
久しぶりの登場です。
まぁ、まぁ、まぁ、何でしょう。マザコンではなかったようです……。
まぁ、こりゃあかん。