番外編 ハンノマの旅10 ダイーズ君帰還
「ちと大きな獲物に出くわしたんじゃが、到底一人で食べきれぬからの。村の皆で食べてはくれぬか?旅の途中なので、保存食にしたとしても多くは持っていけぬからの」
と言えば、ダイーズの母親も、村の老人たちも何も言わなかった。
ふむ。
「何かお礼がしたいのですが、この通り貧しい村なので、何もできずに申すわけありません……」
老人たちの言葉をまとめてダイーズの母親が頭を下げた。
「礼など……あ……」
そうじゃ。
人の行き来が少なく、特産物もない村。
赤い布の場所には、エルフの爺さんが約束通りが樹液と枝を運んでくれていた。
「この木を植えたいんじゃ。植えた後の世話……というほど世話はしなくていいんじゃが、大きく育つのを見守ってくれんじゃろうか?」
もし、ゴムの実用化が出来て、世に広まれば、この村の特産品になるじゃろう。
人の行き来は、ゴムを求める人が来ることで盛んになるはずじゃ。
そのころには一人前になったダイーズが稼いで村にお金も運んでいるはず。足元を見られることも、一方的に搾取されることもなかろう。
そして、木は成長を待たねばならぬ。もし、ゴムに目をつけ同じように木を育てようとするところが出たとしても、数年はかかるじゃろう。その数年の間に、この村はさらに活気を取り戻すはずじゃ。
ダイーズが1人で色々と背負う必要がなくなるじゃろう。
「木を?でしたら、あちらにどうぞ。少し雑草が生い茂っていますが、元は畑だった場所です」
と案内された場所は村の西側。
確かももともと畑だったんだろう。森とはちがい木は生えていない。村から人が減り耕す者もいなくなって放置されたんじゃな。
ふむ。
「では遠慮なく使わせてもらうよ」
雑草さえ始末してしまえば、他の木々が邪魔をすることもない。ある程度の広さもあるし、これだけ雑草が育つということは、土もそれほど悪くないし水もいきわたっているのだろう。
ダイーズが街に行っている間、雑草を抜き、木を植える。いや、刺す。
大きな獲物を探して倒して村に運ぶ。
時々、村の老人が力仕事は無理でも草むしりならと手伝いに来てくれる。
それから、ゴムの樹液は毎日赤い布のところに届けられいてた。乾かすと、嬢ちゃんがくれたゴミのような色になり持ち運びにも便利そうだ。
しかし、何かを混ぜると言っていたが、液体状の時に混ぜないとダメなのか?固まってからじゃ遅いのか?だとすると採取場所で実験をしないとダメだということか?
固まったものをちぎってぐにぐにともむ。ああ、なんだ、パンの生地みたいになってきたぞ?練るのか?混ぜるのは練りこむということか?
うーむ。これは配合の割合の前に、混ぜ方や混ぜた後に冷やすのか温めるのかパンのように焼けばいいのか……かなり時間がかかりそうじゃ……。
ひとまずは固まったものを持ち帰って実験じゃな。それでだめなら固まる前の物を使うため、またこの村でお世話になるか。
ふむ。
村の人とは仲良くなっておいた方がよさそうじゃな。
ということで次の日からは、獣の他に木の実を見つけては採取して持って帰ることにした。
「気を使わなくてもよろしいのに……」
ダイーズの母親に、木の実を押し付ける。
「食べごろの実がわんさとなっていたからな。一つ二つ採取するのも、たくさん取るのも大して手間は変わらん。せっかくだから、皆で美味しく食べた方がいいじゃろ」
二カッと笑う。
「ありがとうございます」
すると、老人が1人にたりと笑って近づいてきた。
「なぁ、ハンノマさんよ、これよりも小さなこんなちょっと変わった形の実は見かけなかったか?」
「ああ、合ったな。だが食べても旨くないじゃろう?」
老人が声を潜める。
「酒ができるんだ」
「何?酒ができる実じゃと?!」
「実を取ってきてくれるなら、その実からできた酒をご馳走しよう」
酒。
そんな実からできる酒など聞いたことがない。つまり、飲んだことがない。
うむ。……実に美味な酒じゃ。どうやら、ワシは村人とはうまくやっていけそうじゃ。今度来るときはワシおすすめの酒も持ってきてやろう。
木の実は熟しているものは見つけしだい採取。来年にはたくさんの酒ができているじゃろう。ワシ専用の樽も用意してもらったぞ。
ふっふっふっ。
と、忙しいながらも楽しく過ごしていると、月日はあっという間に過ぎ、ダイーズが街から戻ってきた。
ダンジョンルールが思いのほか難しくて、村での生活では考えられないルールがたくさんあってと、母親にいろいろと話している姿は子供そのものだ。
どうやら無事に冒険者登録ができたようじゃ。
はい。いつもありがとう。
もうそろそろハンノマの旅も終わるはず