番外編 ハンノマの旅5
いや、ダメじゃ!師匠に知られたら最後。
「そのゴムの木は何に使うんじゃ?ワシが先に使いたいんじゃ!お前はワシの弟子じゃろう、師匠を立てんか!ワシは師匠じゃぞ!絶対ワシが先に使うんじゃ!」
って、3日3晩は地面の上を転がって叫び続けるに違いない……。
最後には「ワシと勝負じゃ!ワシが負けたら諦めてやる」
とか言い出すに違いない。
勝負……。まだワシでは力不足で師匠には勝てぬだろうな……。
駄目だ。駄目だ。
絶対に師匠にゴムのことは知られちゃ駄目だ。
自分で探す。何としても、師匠の耳に入る前に探し出さねばならぬ!
目の前では光となって消えていく3体の中級モンスターの姿がある。
時間差にしてコンマ何秒。
どのモンスターにも矢は1本しか刺さっていない。
何という正確さ。的となるモンスターは動きもそれなりに早かったはずだ。
「あー、おじさんはいってきちゃったの?」
ダイーズがかけてくる。モンスターが消えた後に残った矢を矢筒に戻している。
その動作のすきを突いたかのように、2体の中級モンスターがダイーズの背後の右側と左側に現れた。
「油断するな!それからいざというときのために接近戦でも使える武器を携帯しろ」
と、ダイーズを叱りつけながら、左手でダリーズの頭を抑え込む。そして右手で剣を一閃。
右側と左側のモンスターの首をスパンと切り落とす。
突然頭を押さえられてダイーズは尻もちをついた。そして、落ちてきたモンスターの頭を見て息を飲む。
「ありがとうございます。おじさん強いですね」
「いや、お前も年の割には十分強いぞ」
ぽんっとダイーズの頭を叩いて、それから手を引っ張り上げる。
「そう、なのかな?村には子供が少ないから、他の子供がどれくらい強いのか知らないから」
ん?
まさかと思うが……。
「ダイーズ、お前町に行ったことがないのか?」
「うん」
「冒険者になろうと思ったことは?」
「なれたらなりたいと思ったことはあるけど、僕は冒険者学校に通うお金もないし……村を長い間離れることもできないから……」
なんじゃと。
「ダイーズ、ステータスを見せて見ろ!あ、いや、全部じゃなくていい。レベルとHPとMPを見せてもらえれば十分じゃ」
ダイーズはワシの言うままに、ステータスを開示した。
……なんじゃ、すごい数字だな。
ローファスの坊主ほどではないにしろ……。
「ダイーズ、お前、レベルが10になってるじゃろ。レベルが10になれば冒険者見習いは卒業で、いくつか講習を受ければすぐに冒険者になれるぞ?」
ダイーズの目がきらりと一瞬輝き、すぐに不安げな表情を見せる。
「え?冒険者学校には?」
「通わずに冒険者になる人間のほうが多いくらいじゃぞ?」
また、希望の光がダイーズ君の目に現れ、そしてすぐに消えた。
「なんじゃ?」
「村を離れるわけには……。僕がいない間、獲物が取れないと村の人たちの食べる物が……」
ふむ。
村には子供が少ないと言ってたな。ということは、子供のいる働き盛りの年齢の人間も少ないということだろう。
若者は村を出て行ってしまうか、そもそも何年も前から高齢化が進んでしまっているのか。
「しばらくはワシがお前の代わりをしてやろう。その間に冒険者登録を済ませてこい。いいか、冒険者登録を済ませたら、いくつか依頼をこなすんじゃ。依頼をこなして現金を手に入れて保存食を買って村に戻る。村人が保存食を食べている間に、また依頼をこなしに町に行く。いいか、そうして冒険者ランクを上げて行けば、いつしか村が豊かになり、お前が村にいなくてもやっていけるようになるじゃろう」
今度こそダイーズの目が希望にキラキラと輝きだした。
「あ、でも、……おじさんにお礼ができない」
と、今度は別の意味で顔を曇らせる。
「いい子じゃな。こんな危険なところを通ってまでワシをゴムの木まで案内してくれようとしてくれたんだ。そのお礼じゃよ」
頭を撫でてやりたくなったが、ここはダンジョンの中。
片手の自由を奪い、相手の意識をこちらに向けるような行動は慎むべきなのでやめておく。
「あ、ありがとう……ございます。僕……。おじさんにお礼ができるように冒険者頑張ります。村が豊かになって、僕がいなくてもやっていけるようになったら……そうしたら……必ずお礼をしに行きますから!」
まったく、義理堅いいい子じゃなぁ。
ふむ。
そうじゃ。もしゴムの木があったら、ゴムの樹液を採取する依頼をするかの。それがワシには何よりの礼になるからの。こんな危険な場所を通り過ぎてしか採取できないなら、頼める人間も少ないだろう。それに、なるべくゴムのことは知られないようにしたいからの。
と、考え事をしていると、また中級モンスターが現れた。
はい。読んでお分かりのように、これ、ダイーズ君編より前の話です。
あれ?もしかして、更新って、交互にしたほうがよかったかな?あれ?




