番外編 ハンノマの旅3
「えーっと、じゃぁ、コレを村に運んでからでいいかな?」
と、通常の猪の倍の大きさの猪を少年が指さした。
「ああ、もちろんじゃとも!いくらでも待つぞ!もっと獣が必要なら倒してやってもいい!」
少年が首を横に振る。
「これだけあれば、村の人の今日の食事は足りるから大丈夫です。ちょっと待っててください」
ふむ。
たしかにでかい猪だ。2000人分くらいの肉が取れそうじゃな。100キロはありそうな猪だ。
ん?100キロ?
「ワシが運んでやろう、ダイーズには無理じゃろう?」
50キロくらいなら少年でも引きずっていけば運べそうじゃが、100キロともなるとさすがに難しいじゃろうと思ったら、少年は猪の前足をもって、肩の上に持ち上げて背負って立ち上がる。
背負ったというよりは、襲われているような見た目だ。
猪は後ろ脚をずるずると地面を引きずりながらも、すごいスピードで少年に運ばれて行った。
……なんじゃ、見た目よりも力持ちな少年じゃな……。
そういえば、一人で狩りをしているようじゃし、村人の食糧を担っているのだとすると……。
村一番の狩人なのかもしれぬな。少年だからといって、見た目そのままに子供扱いするのも失礼だったかもしれんなぁ。
ふむ。
ある程度の実力があるなら、お礼に武器を渡してやるのもいいかの。
弓を背負っていたようじゃが……。弓はワシの分野じゃないんじゃよな。解体用のナイフがいいじゃろか。
ナイフならいくつか持ち歩いておるし。
「お待たせいたしました」
少年が息を弾ませて戻ってくる。
頼みごとをしたのはこちらなのじゃが、少年は待たせたことを申し訳なさそうに頭を下げた。
いい子じゃな。
うん。今持っている中で一番良いナイフをお礼に渡そう。見た目はシンプルなナイフじゃ。
ワシの名前を聞いても反応しなかったからな。マークを見ても気が付くまい。
しばらく森の中を二人で歩いていく。方向としては森の奥に向かっていると言えばいいじゃろうか。ずんずんと歩いていくと、木に白い布切れが巻かれているのに気が付いた。
ふむ。褐色の木に白い布はそれだけで目立つ。
目立つために巻かれているのだとすると、目印だろう。
よく見れば、あちらにも、そちらにも白い布が見つかる。
どうも、道しるべ的な印ではないようじゃの。一体なんだろう?
「本当は、この布の先には進んじゃだめなんです」
ん?
少年が白い布を指さした。
「神域か何かかの?ワシが入っても大丈夫なのか?」
少年が首を横に振る。
「神域じゃないと思うけど不思議な場所だよ」
不思議な場所?
「それから、入っちゃ駄目なのは、強い獣が出るからなんだ」
「強い獣?狼か何かか?」
大丈夫じゃ。狼だろうが熊だろうが、ワシが倒してやるからなと安心させようとしたら少年が弓を構えた。
少年の弓の先を見れば、ずいぶん先に何かいるようじゃ。
何じゃろう?
そう思って3歩足を進めると、慌てた少年の声がした
「ダメだよ!おじさん!そこの赤い布から先に入っちゃ!」
え?
白い布ばかりに木を取られて気が付かなかったが、よく見れば赤い布が枝に巻かれている。
「強い獣は、赤い布のこちら側には絶対来ないから安全なんだ。赤い布を超えてあっちに行くと、獣に襲われる」
え?
何とも不思議じゃの。
獣が縄張りを持つというのは有名な話じゃが、きっちりこの線より向こうまで活動するが、線を一歩でも超えることはないなどあり合えるじゃろうか?
考えられることとすれば、誰かが結界魔法でも施しておるのかの?
村に近づかないように。それから、村の食糧を狩る森を守るように……と。
ワシが赤い布よりも後ろに下がると、少年は安心したようにホッと息を吐いて、もう一度弓を構えた。
おや?
よく見ればこの構え方は……。
弓の大きさが小さいとは思っていたが、子供だからだと思って気にもしておらなんだが……。
構え方が縦じゃなく横とはな。
横に構える弓だから小さかったのか。
どうもいつもありがとうなのよ!




