ダイーズ君視点3
「はい、どうぞ」
渡された答案用紙は、×ばかり。
あ、あれ?
「0点です」
う、そ、だよね?
ショックで青ざめる。
何故?どうして?
「人としては優しくて満点の回答ですよ」
お姉さんがにこっと微笑んでくれた。受付で見た怖い笑顔じゃない、本当に優しい笑顔だ。
「ですが、ダンジョンルールは何も知らないというのがよくわかる結果です。これからしっかり学んでいきましょう。ダンジョンルール基礎を2回、応用を3回受講してください。講習は明日あります。頑張れば、明日1日ですべての講習を受けて皆さんも晴れてF級冒険者となれるよう期待していますよ」
お姉さんが部屋を出て行った。
「0点だって、お前、バカなのか?」
男の子の一人がからかうような目を向ける。
ガタンと大きな音を立ててブライス君が立ち上がった。
迷惑だよね。ごめんねと思っていたら、ブライス君がすごい笑顔で、こちらを見る。
そう、受付のお姉さんが見せたあの、怖い笑顔の10倍くらい怖い顔。
ご、ごめんなさい。0点取るような人間がうるさくしてごめんなさい。あ、うるさいのは絡んできた子たちなんだけど、原因は僕にもありますよね……。
「人としては優しくて満点……と、先生はおっしゃっていましたね」
はい。でも冒険者としては0点だそうです。
「僕の知っている人に、同じ人がいます。とても優しくて素敵な女性です」
あ、少しだけブライス君の表情が柔らかくなる。
きっと本当に素敵な女性なんだろうなぁ。
「ですが、ダンジョンルールは何も知りませんでしたし、ダンジョンルールを知って悲しんだり、怒ったりしていました。ですが、ちゃんとその理由まで理解すれば、必要なことだとよく心に刻むようになりました。そのうえでもなお……人として優しい人です」
ブライス君が男の子に顔を向ける。
「君たちは、冒険者として満点も取れない、人としても満点を取れない、どちらも中途半端な人間でしょう?ああ、もしかして、人として問題があったからこそ、ダンジョンルールで運よく正解したのかもしれませんね。助けてと言われても、助けなさそうですから」
「なっ、何を!」
ブライス君の言葉に、男の子の一人が激高する。
「ダンジョンルール。ダンジョン内での喧嘩はご法度よ。ギルド内でもダンジョンルールは適用されるわ。私は目撃者として、あなた方が喧嘩したと証言しても構いませんわよ?ああ、もちろん、証言内容はあなた方2人が一方的に絡み、彼がそれを助けようと手を差し伸べたということで間違いありませんわよね?もちろんその場合の処罰は、絡んだ人間に謹慎か罰金か、重い場合はランク降格」
女の子が淡々と話を進める。
「あら?でもまだ仮のF級の場合は、降格だとどうなるのかしら?レベルが10でも冒険者見習いなのかしらね?」
男の子が慌てる。
「け、喧嘩なんてしてねぇ、お、俺たちはなぁ、その、」
あ!
「もしかして、僕、村から出てきてこの町には一人も知り合いがいなかったから……友達になろうとして声をかけてくれたのかな?」
と口を開いたら、無表情だった女の子の表情が驚きの表情を浮かべた。
「は?」
「いたよ。村でもさ。その、素直に慣れなくて、つい悪口バッカリ言っちゃう人。口は悪いけど、悪い人じゃないんだよ。森で足をくじいて歩けなくなった時にも、馬鹿だなって。こんな何もない森で足をくじくなんて赤ちゃんくらいなものだ、だからお前はろくな獲物も取れない。って散々言われたけど、それでも背負って村まで連れて行ってくれたんだ」
思い出して思わず笑顔になる。
「ば、ばっかじゃねーの。本当に、馬鹿だ!と、友達になんて、ならないからな!」
男の子二人が走り去っていった。
「え、そ、そっか……」
友達にはなってくれないのか。
しゅんっと頭を下げる。
「ぷっ。ふふふふっ。人としては満点というのはさすがね……だけれど、ふふふ。私で良ければ友達になりましょう!」
女の子が手を差し伸べてくれる。
「え?あ、本当に?有難う。あの、僕はダイーズと言います!よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、女の子の手を握る。
「ふふふ、名前は知っているわ。さっき先生に呼ばれていたでしょう?私はランカよ。そちらはブライス君よね。あなたはどうします?」
嬉しい。友達だ!
ブライス君にランカさんがどうすると尋ねているけれど、何のことだろう?
「そうですね、僕も友達に加えてもらえますか?」
ブライス君が両手を出した。
片手をランカさんが、もう片方の手を僕が握る。
「あ、有難う!あの、友達、嬉しいです!その、僕の村では、子供が少なかったから、あの」
「ねぇ、とりあえず、お近づきのしるしに、講習一覧表見ながら受講する講習の相談とかしませか?」
「そうですね。どんな講習があるのか僕も気になっていましたし。ダイーズ君もそれでいい?」
「はい!僕も講習気になってました!あ、でも、その……知らないことがたくさんあるので、えっと、迷惑をかけてしまうかも……」
ブライス君が笑顔になる。今度は怖くない笑顔。
「そういうところも、似てますよ」
「はい?」
「ところで、ダイーズ君、僕の知り合いが、君の名前を時々つぶやいているんだけれど……会いたいと言ったら、会ってあげてくれないかな?」
え?僕の名前を?
「もちろん、構いませんけれど……???」
いつもありがとう。
ぶはっ。
そうなの。ただ、これが、これだけが書きたかった番外編。
ユーリが「大豆、大豆ぅ」とかぶつぶつ言っているの聞いて、ダイーズ君の名前聞いた瞬間!
っていうね。
ユーリさんが会いたがっていた人に違いない!ユーリさんと同じようにすごくいい子だから、もしかして同じ村出身、いや、行き別れた姉弟かもしれない……。
お近づきになっておかなければ!
と、思ったかどうかは知りませんが。ぐふふ。
そして、ランカちゃんも個性的だねぇ。きっとダイーズ君を仕方ないなぁってずっと面倒見ちゃうあれだよね……。
うっ。
そんで、いつも「もう、ダイーズは仕方がありませんわねぇ」ってずっと姉的立場でいたのに、ある日ダンジョンでランカちゃんをかばってダイーズが大けがしちゃって
「よかった。僕はずっとランカちゃんに助けてもらってばかりで、僕、いつか恩返しがしたかったんだ」
「何言ってんのよ!け、【契約 私にダンジョンの外まで連れていかれる キス】」
「ふふ、ランカちゃん何か僕に説くしかない契約だね?……これ以上、迷惑はかけられないよ……【契約 ランカちゃんはダンジョンを脱出して僕のことを誰かに知らせて 僕の差し出せるものなら何でも】」
「な、なんで、どうして、契約しなさいよ!し、知らないわよ!知らないんだからね!死んじゃうかもしれないんだよ!」
おっと、あとがきで何書いているんだ。
いやー、妄想はかどりますね。




