閑話 日本では
苦手な人は閉じてね。
美味しいものが食べたい。
ふと、思い浮かんだのはあいつの作った夕飯だ。
はっ。バカバカしい。
あいつの作っていた料理なんて、普通の、ただの家庭料理じゃないか。
手元のカップラーメンに視線を落とす。
「これよりは幾分マシ」
そうだ。カップラーメンよりはマシだから、思い浮かんだだけだ。
よし。明日はどこか食べに出るか。
どこに？
美味しいもの……レストランに１人で行くのもみっともない。
妻を置いて一人だけで美味しいものを食べに行っていると、誰かに見つかれば何を言われるか。
あいつが出て行ったのが悪いのに、何故俺が世間の目を気にして外食すら思うようにできないんだ！
くそっ。
そうだ。
ただの家庭料理だって、コレよりはマシだ。
久しぶりに実家に帰るか。
うん。
お袋だって、俺の顔が見られれば幸せだろう。
お袋の料理を食べに行くか。
親父は定年退職してからは毎日家にいるんだろうか。
一人で実家に行ったらあいつはどうしたと言われるか？
どうしても友達と旅行に行きたいと言うから、許してやったとでもいえばいいか。
親父は、専業主婦が夫の稼ぎで旅行に行くとは何事だと怒るかもしれないな。
知るか。
あいつの評判が落ちようと知ったことじゃない。
お袋は、お前は優しい息子だねと褒めてくれるかもしれない。
そうだ。俺は優しいんだ。
明日は実家。
いや、土曜日なんだ。
土日と泊まりで行くか。
ああ、そうしよう。
お袋が朝昼晩と喜んでご飯を用意して、洗濯だってしてくれるだろう。風呂の用意もしなくていい。
いっそ、今から行こうか。
時計を見る。
さすがに今から行けばつくのは０時を回る。
年寄りの夜は早いからな。流石にもう寝てるだろう。
食べたい物リストでも作っておくか？
いや。俺が食べたいと言っても、親父が食べたくないと言えばメニューはあっさり変更されるからなぁ。
今日はビールだから、ビールに合わない物を出すな！と、酒を基準として作る物を要求していた親父。
鍋は日本酒の日にしろと言っていたな。
今思えば、ずいぶん食にうるさい父親だ。それに比べて俺は、作り直させるようなことをしていたわけじゃないから、本当に優しい夫だ。
食べたくない鍋だったとしても「食って来た」と言って食べないだけだったんだからな。
まぁ、実際食べて帰ることも多かったが。
