186 おいしいね
とにかく、馬車の窓にあるカーテンを開く。
セバスチャンじゃなくって、名前わかんないけど、御者の人を呼ばないと。
「はぁ……」
ふえ?
バタリと倒れていたリリアンヌ様が、むくりと起き上がった。小さなた色っぽいため息を漏らして。
「大丈夫ですか?えっと、その……」
高貴な家の人か、金持ちの人か、とにかく、リリアンヌ様のように何らかの立場のある人に何かあったら、私たちやばいよね……。汗、汗。
オロオロ。
「はー、あまりにおいしくて、気を失ってしまったわ」
え?
「リ、リリアンヌ様?」
おいしくて気を失う?
「もう一ついただいても?」
「今度は俺の作ったやつ食べてくれよ」
カーツ君が盾の形に作ったクッキーを手渡した。
「ありがとう。【浄化 解毒】ぱくん」
リリアンヌ様が、両目をつぶって、両腕で体をぎゅっと抱きしめている。
「ふああああ、おいしすぎま……」
バタリと、また倒れました。
「リリアンヌ様!リリアンヌ様!」
大丈夫なの?!
さすがに、普通はこんなに簡単に意識飛ばないよね?
「どうかされましたか?」
御者台と通じる小さな連絡口の小窓が開いて、セバスチャン風御者さんが顔をのぞかせる。
「あの、リリアンヌ様がクッキーを食べたら意識を失ってしまって……」
むくりとリリアンヌ様が起き上がった。
「よかった……」
ほっと胸をなでおろしていると、御者さんがリリアンヌ様に話しかけた。
「リリアンヌ様、気を失っている間に族に襲われたらどうするおつもりですか。ほどほどになさってください」
「分かっているわ。私も意識を保つつもりなのよ。でも、こんなにおいしいものを食べてしまっては……。この色のついたものは何かしら?」
御者さんとのやり取りを聞いていると、どうやらおいしいものを食べて意識を失うということは、リリアンヌ様にとっては珍しいことではないらしい。
……でも、そんなことある?
……。うーん。
あれかな?
大好きなアーティストの握手会とか言って、感激のあまり気を失うみたいな?
嬉しすぎると、人って、意識失うこと、確かにある。うん、あるね。
そんなにリリアンヌ様って、美味しいもの食べると感激するの?
それともあれかな……。
平安貴族って、すぐに気を失っていたんだよね?運動しなさすぎて、走っただけで死ぬようなこともあったとかなかったとか……。
うん。きっと、それだ。
リリアンヌ様は、私以上に体力がなくて、運動不足で、か弱くて……力は強いけど、ちょっとしたことで気を失う。平安貴族のような方に違いない。
「あのね、これはね、グミで作ったジャムなのよ。キリカたちがグミを取ってね、ユーリお姉ちゃんがジャムを作ってくれたのよ」
「そうそう。このジャム、トーストに塗ってもうまいんだよなぁ」
カーツ君とキリカちゃんとリリアンヌ様の三人が私の作ったグミクッキーを同時に手に取り、同時に口に入れた。
あれ?
リリアンヌ様、呪文、呪文飛ばしてるよっ!
やめて!もし、毒じゃないけど、アレルギー体質とか、何か合わなくてリリアンヌ様に何かあったら、私が作ったグミクッキーのせいにされちゃうよ!
そんなんで牢屋に入りたくないです……。
ああ、牢屋ならいい。この世界、いきなり打ち首みたいなこと、ないですよね?
「はわわわぁ……!」
ばたっ。
うぎゃーっ!
リリアンヌ様がまた倒れた!
「リ、リリアンヌ様、リリアンヌ様!」
これも、美味しくて思わず意識を失っただけですよね?
涙目っ!
「どういうことなのかしら!」
むくりとリリアンヌ様が起き上がった。
よかった、起き上がった。
どうも。
リリアンヌ様も変な人でした。
(´・ω・`)あれ?




