185 クッキー実食
「うわー、甘いのよ!お砂糖みたいなのよ!」
キリカちゃんの感想を聞きながら、オレンジ色のドライフルーツに結晶化した砂糖がくっついたものを口に入れる。
うん。甘い。
これ、刻んでホットケーキと一緒に食べてもおいしそう。これだけ食べるには……おいしいけれど、正直1つ2つでもういいですって味だ。
「遠慮せずに食べてね。まだいっぱいあるのよ」
と、箱をぐいぐい差し出されるんだけど……。
「いえ、あの、ありがとうございます」
「口に合わなかった?ほかにもあるのよ?」
リリアンヌ様が別の小箱を取り出して蓋を開ける。
うん、今度は紫色ですが、同じように砂糖まみれです。
すすめられるのを上手に断るにはどうすればいいんでしょう……。ううう。
「キリカちゃん、どうぞ」
「あのね、キリカ、もういらないの。あんまり食べちゃうと、キリカの作ったお菓子が食べられなくなっちゃうから」
うお、キリカちゃん、ナイス!
そうそう。それがあった!
「キリカちゃんが作ったお菓子?」
リリアンヌ様が首を傾げる。
「ええ、そうなんです。食べようと思って持ってきたのですが、食べる時間がなくて……」
背負い袋の中から、クッキーを包んだ布を取り出し広げて見せる。
「小さなパン?それともクラッカー?」
「クッキーと言うんです。材料がそろわなくて、なんちゃってクッキーですが……」
「これね、キリカが作ったのよ!いただきますなの!」
キリカちゃんがクッキーに手を伸ばしてぱくんと口に入れた。
そういえば、生地の形を作って鉄板に並べるところで寝る時間になっちゃったもんね。焼きあがったの味見もしてなかったんだ。
「こっちのは俺が作ったやつだ」
カーツくんもクッキーを一つ手に取り口に入れた。
キリカちゃんのはハート型のジンジャーオリーブクッキー。
カーツ君のは剣の形のプレーンオリーブクッキー。
そして、私が作ったのはグミジャム入りの丸いクッキー。
「うんまっ!」
カーツ君絶句。
「おいしいでしゅ」
キリカちゃんの語尾が幼児化。
「え?どうしてですの?二人とも、私があげた甘いお菓子を食べた時よりも嬉しそうな顔していますわね?」
あ。
きっと高価なお菓子を分けてくれたんだよね……。
「あ、あの、自分で初めて作ったお菓子を口にしたので、二人とも、その、感激ひとしおと言うか……えっと」
「いただいてもよろしいかしら?」
リリアンヌ様にキリカちゃんが元気よく答えた。
「もちろんなの!キリカの作ったクッキーあげるの。どうぞなの!」
キリカちゃんが星の形を作ろうとしてちょっと失敗したクッキーをリリアンヌ様に手渡した。
「その、気を悪くしないでくださいね。口に入れるものは全部こうしていて、あなた方を疑っているわけではいのです。立場上……」
と、前置きをしてからリリアンヌ様が呪文を唱えた。
「【浄化 解毒】」
……立場上?
毒を警戒する立場っていうことだろうか。
「いただきます」
あ、補正効果!
えーっと、キリカちゃんは2つくんだよね。昨日の夜作ったからもう12時間以上たってるから効果は消えてるかな。オリーブオイルは命中率アップだっけ。……。まぁ、消えてなかったとしても、命中率なんて確認するようなことないか。
パクリとリリアンヌ様がクッキーを口にする。そのとたんに、リリアンヌ様の体が傾いで、ぱたりとキリカちゃんの座っていない側の座席に倒れた。
「リ、リリアンヌ様!」
え?
毒?
だって、今、解毒魔法……!
どうしよう!解毒、バジル、バジルって今持ってたっけ?持ってない?やばい、持ち歩くようにしないと!乾燥して粉末にしたバジルなら持ち歩くのも簡単だ。常備するようにしないと。それこそ、バジル料理なんて、ゆでたジャガイモに塩とバジルを振りかけるだけで十分料理になるんだも。ってクラーケンも必要なんだっけ?ああ、クラーケンもスルメみたいに乾燥させたやつなら持ち歩けるか。
って、今はそんなこと考えている場合ではない!
いつもありがとう。




