183 ぐああ!
馬車が3台門を出ていくのが見える。
出ていった車がタクシーとすれば、目の前に止まっている馬車は黒塗りベンツかクラウンか。
リムジンというほどではないけれど、明らかに黒一色と地味な色合いではあるけれど、立派なものだ。
御者台に人が座っている。あ、これは貸し馬車じゃないのかな?
取りあえず、馬車の絵が書かれた看板がぶら下がっている小屋の男性に声をかける。
「すいません、馬車を借りたいのですが」
「おや、すまんな。今全部出払ってるんだよ」
貸し馬車屋のおじさんの声にショックを受ける。
「えー、いつ戻ってくるんだ?」
カーツ君が尋ねると、おじさんが首を横に振った。
「分からん。半日単位で貸し出しているから、何時に戻ってくるかは分からない」
うわー、そうかぁ。
バンさんから預かった手紙を見せるもなにも、馬車がいなければどうしようもないね。
「歩いて帰ろうか?」
カーツ君とキリカちゃんの顔を見る。
「うん、キリカはいいよ」
「俺も。でも……」
カーツ君が心配そうに私の顔を見た。
うぐぐ。子供に心配される三十路はここにいます。
ごめんなさい。そうですよね。私が一番体力ないですもんね……。
買い物した荷物は、兵に乗せて行ってもらったので、そんなにたくさんはないから、問題なのは距離と……。
「ほ、ほら、まだクッキー食べてないから、えっと、私が作ったやつ、グミジャム入りのだし。えーっと、作ってから半日ちょっと経ってるけど、効果は6か7あると思うし……」
「ああ、HP回復もするやつだよな。でも……」
カーツ君は納得していない。
うん、はい、そうですよ。私もあんまり自信はないです。
小屋まで日が落ちる前に歩ききれるかな……。体力回復させながらと言っても、距離が距離だけに……。
「荷物も少ないから、大丈夫だとは思うんだけど……」
背負い袋には、泡だて器とナッツ類と乾燥させた葉っぱが何種類か。畑では見かけなかったハーブのはずなのでしょ。
「キリカ持ってあげるよ!」
いやいや、そこまで重たくないよ!っていうか、心配されすぎじゃない!
「大丈夫、ありがとう。自分で持つよ」
「じゃぁ、俺が持ってやるよ」
カーツ君の背負い袋には握りしめていた銀貨で買ったものがぎっちり入っています。バンさんに剣の手入れの方法を教えてもらって、その道具を安く売ってもらったものです。
「カーツ君こそ、重たくないですか?」
カーツ君は大丈夫と胸を叩いた。
「どうする、ユーリねえちゃん。貸し馬車が戻ってくるのを待つか、歩いて帰るか」
「どうしましたの?」
貸し馬車屋の受付でずっと話し込んでいたら、声がかけられた。
「あ」
黒塗りベンツみたいな馬車の小窓から女性の声が聞こえる。
「すいません、通り道で邪魔でしたか。すぐにどきますので……」
慌てて道の端に寄る。
「あらあら、邪魔になんて思っておりませんわよ。大きな荷物を抱えて、貸し馬車屋の前でお話していたので……もしかして、貸し馬車がなくて困っているのではなくて?」
小窓にひかれたカーテンが開いて、女性の顔が見えた。
綺麗。
30前後のくっきりはっきりした目鼻立ちの美人が顔をのぞかせる。金髪キラキラ。
「わたくしが、急に5台も借りてしまったから……」
ああ、それで私たちのことを気にして声をかけてくれたんだ。きれいなうえに、優しい!
「あの、何時ごろに戻ってきますか?」
「先ほど出発したばかりだから、日暮れ前になってしまうと思うわ」
そっか。じゃぁ、あきらめて歩いて行くしかないね。
「どこへ向かうの?」
「あのね、キリカたちね、森の向こうのダンジョンに行くのよ」
キリカちゃんが門を指さす。
「あら、ダンジョン?でしたら通り道ですわ」
ガタリと小さな音がして、馬車のドアが開いた。
「どうぞ、乗ってちょうだい」
女性が馬車の中から手招きしている。
ぐ、ぐ、ぐああああっ!
うん、予約投稿切れた。
あ、書き溜めはあるの。投稿してないの。
いつもありがとう。とりあえず今日の分。