181 見め麗しい
「確かに、これだけ剣を細くしたうえでも強度を保とうと思えば、世の中に作り出せる鍛冶屋は少ない。それゆえにハンノマの元に持ってきたのじゃろう」
違うの。
単に知り合いがハンノマさんしかいなかったからなの。
……っていうか、武器じゃないですっ!
「剣をカーブさせる。そして、お互いに支えあうようにすることで、衝撃も吸収して強度を増す。この考え抜かれた武器のデザイン」
だから、武器じゃないし、私が考えたわけじゃないし……。
むしろ、泡だて器の絵を見て武器だと思ったドワーフさんのほうがすごいっていうか、ありえないっていうか……。
「なんじゃ、想像した武器が完成して嬉しいのか?」
思わず涙が……。
「私が欲しかったのは……これじゃないんです……」
と、言ったら、ドワーフさんがふらりと後ろに散歩ほどよろめいた。
「な、なんじゃと……伝説とまで言われたこのワシの、渾身の作を……これじゃない……だと?」
伝説?
「あの、一生懸命作ってくださったことには感謝しますし、すごい武器だとは思いますが、私が欲しいのは、武器じゃなくて……お菓子とか料理をするための道具だったんです……。説明不足でごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。
「武器じゃない?嘘じゃろ?わざわざハンノマの店を訪ねてきて、武器じゃないものを注文しようとしていたのか?」
今度は別の意味でショックを受けたみたいです。
「えっと、あの、ハンノマさんには依然包丁を売っていただいて、他に料理道具を作ってくださる人を知らなくて、その……誰か紹介してもらえるだけでもいいと思ったんですが……今日は、その、包丁のお礼も兼ねて……」
ドワーフさんがん?と首を傾げた。
「包丁?そういえば、坊主が嫁を貰ったら嫁にプレゼントしてやろうと、サプライズで作っていたことがあったな……」
はい?
「なかなか結婚しないんで、とうとう売っちまったか」
坊主?
「もしかして、ハンノマさんのお子様のために作った包丁だったんですか?」
「いやいや違う違う。ハンノマはまだ独身じゃろ。ワシでさえ、結婚したのは60歳を超えてからじゃぞ」
「え?60歳?遅いですよね?」
ドワーフさんが首を傾げた。
「いや、普通じゃぞ?」
普通?
もしかして、ドワーフさんは、エルフのように長寿とか?
……そういえば、キリカちゃんは獣人だったよね。えーっと、モンスター図鑑もいるけど、この世界に住んでいる人たちのことも学ばなくちゃ……。
っていうか、ハンノマさん何歳なんだろう……。
「しかし、すまんかったの。ワシが勘違いして勝手に武器を作ってしまって……。嬢ちゃんの描いた絵を見た瞬間に、この武器のすごさに取りつかれてしまったんじゃ。この武器じゃが……このデザインでこれからも作らせてもらってもいいじゃろか?」
武器じゃなくて、泡だて器なんですけどね……。
「ええ、もちろん構いませんよ?」
「そうか!じゃぁ、さっそく登録せねばならんな!嬢ちゃん、ちょっと鍛冶ギルドに付き合ってもらえんかの?」
鍛冶ギルド?
冒険者ギルドの鍛冶バージョンっていうこと?
この世界に初めて来たときのことを思い出す。突然冒険者ギルドだったんだよね。
武器のデザイン登録すると、他の人がこういう形の武器もあるよって知ることができるようになるのかな?私、行く必要ある?
「あの、鍛冶ギルドに行けば、武器じゃない調理器具の泡だて器を作ってくれる人がいますか?」
「もちろんじゃ。ワシが紹介してやってもいいし、ギルドの職員に聞いてもいい。あ、依頼表を出しておくのでもいいな。……って、この形で武器じゃない調理器具ってどんなんじゃ?」
ドワーフさんに説明する。
「サイズはこれくらいで、物は切れなくていいんです。こうして、器の中に入れたものを手早くかき混ぜるために使うんです」
と、手ぶり身振りで説明。
「なるほど、小さくして切れないようにすればいいんじゃな。だったら、これを小さくして切れないようにしてもらうか」
目の前には私の身長よりも大きな泡だて器型の武器。
これを小さく?
「おーい、バン、また酒飲んでぶっ倒れてるんじゃないだろうな!」
店のほうから声が聞こえて来た。
「表に旅に出るって張り紙あったけど、留守の間に勝手に酒瓶に手を出してるんだろ、どうせ」
声が近づいてくる。
店の裏口が開いて、それはもう、見目麗しい男性が現れた。
声を聴かなければ男性なのか女性なのかも分からないほど、神秘的で美しい人だ。
ども、ニューキャラ登場です。誰?!




