異世界で日本人が若く見られる定番発生中?
10年間、主人のために、掃除も洗濯も料理もずっとずっとがんばってやってきた。だけどそれは仕事でもなんでもないって。家で楽してただけだって嘲笑われて。もし給料もらって自立できても、きっと主人は言うんだろう。
「結局お前にはそれしかできねーんだ」と。
「私、もっと違う仕事がしたいんですっ!やってもみないうちからあきらめたくない。もし、もしどうしても私には無理だったら……」
悔しい。
掃除だって洗濯だって料理だって、プロの家政婦にも負けないくらいがんばっていた。家事だって立派な労働だ。
でも、主人はきっと彼女は仕事も家事も両立していたんだと、家事しかしてないお前とは違うんだと……そう言うんだろう。
「うーん、どうしても冒険者になりたいって奴は多いけどなぁ……。どうすっかなぁ」
へ?冒険者?
「しゃぁーない。5歳の子供でもできる仕事なら紹介してやる。そこでコツコツ働いてレベルを上げることだ。レベルさえ上がれば別の仕事も紹介できるからな」
仕事を紹介してくれる?
「あ、ありがとうございます!」
「じゃぁ、ついてこい。ちょうどポーション畑に行くところだったんだ。連れてってやる」
ポーション畑?
畑仕事ってこと?うん、それならがんばれば私にもできそうだ。ミミズやカメムシくらいなら平気だし。蛇が出てきたらさすがに腰を抜かすかもしれないけど。
腰の高さもあるカウンターを、男の人は手をついて軽く飛び越えてこちら側に来た。
改めて見ると、すごい服装だ。
茶系のシャツとズボンとブーツ。それに、皮の胸当て。腰のベルトには剣が。
ゲーム風世界を演出するためのコスプレ?ハローワークの職員さんも大変だな。
「ああ、ローファスさんっ!勝手に仕事紹介しないでくださいよっ」
「問題ないだろう?俺が責任持つからな」
ローファスさんって言うんだ。
「もうっ。S級冒険者だからって、勝手しすぎですっ!ユーリさんの個人情報も覗き見ちゃうしっ!知りませんよ、ギルド長に後で叱られてもっ!」
ぷんすかと怒りながら、カウンターの女性は小さな銅色のカードをローファスさんに投げつけた。
パシンと、投げつけられたカードを受け取ると、ローファスさんはシャツの襟もとを留めていた紐を抜き取った。
紐をカードに通して結び、私の正面に立つ。
「ほら、これで嬢ちゃんも冒険者だ。無くすなよ」
ニッと笑って、ローファスさんが紐を通したカードを首にかけてくれた。
大きなローファスさんの手が少し髪に触れる。
あっ。
ドキンと心臓が跳ねた。
既婚者なのに。男の人にこうしてネックレス……まぁちょっと違うけど……を首にかけられるだけでドキドキするなんて。ちょっと自分がおかしかった。
ふっ、ふふっ。
「ほら、笑ってる場合じゃない。無くす前にさっさと服の中に入れて置け!」
カードをつまみあげられ、カットソーの襟元を引っ張られる。
「きゃっ、な、な、な、何するのよっ!」
私よりも頭二つ分高い位置からだと、襟元引っ張ったら中見えるよね?せっ、セクハラっ!
「あ、すまん、いや、悪かった。いや、その……」
ぎっと顔を赤くして睨みつけると、ローファスさんは私以上に顔を真っ赤にしていた。
ん?セクハラ確信犯って感じとは違う?
「ローファスさん、ユーリさんをポーション畑の子供たちと同じ扱いしないでくださいっ。ごめんなさい、ユーリさん。面倒見のいい男ではあるんだけど、世話好きすぎるのが玉にきずで……」
子供扱い?
いや、ちょっと待って。
もう三十路なんですけど。そういえば、嬢ちゃんって呼んでたのは……。
あれ?本気で嬢ちゃんっていう年齢に見られていた?いくらなんでもそんなバカな……。