180 泡だて器ができあがり……まし……え?
本当に冒険者になれるんだろうか?
勉強しなくちゃ。
ローファスさんにモンスター図鑑も貸してもらうように頼んであるし、それからブライス君に魔法の基礎の本も見せてもらえて、しかも直接いろいろ教えてくれるっていうし。
勉強しなくちゃ。
体も鍛えなくちゃ。
レベルも上げて、えっと、それから、ポーションの研究と……。
やることいっぱいです。
でも、楽しみです。いろいろなこと、楽しいんです。
「これからも、いろいろ教えてね」
カーツくんとキリカちゃんの頭をなでる。
「えへ」
「そろそろ泡だて器取りに行こうぜ」
カーツ君に言われて、ハンノマさんの店に向かった。
「すいませーん」
店に入って姿が見えなかったので、声をかける。まだ、奥の作業場で作ってるのかな?
「おう、入ってこい。店の裏で試し切りするぞ」
と、声が返ってきました。
試し、切り?
泡だて器ですよ?まぁ、確かに、卵を切るように混ぜるみたいは表現があることにはあるけれど……?
「どうだ!嬢ちゃんの書いた完成図の通りだろう!」
店の裏に回ると、ちょっとした庭がありました。庭というか、鍛錬場?
普段、作った剣の切れ味を試している場所でしょうか。木偶とか立ってます。
バッサリマップたちになった盾とか折れ曲がった剣なども無造作に置いてあります。
と、つい、現実逃避するために辺りの様子を見まわす。
「うわー、すごいの!泡だて器って、大きいのね!」
違うよ、キリカちゃん。
「かっこいいなぁ!すんげぇ強そう!」
その表現もおかしいよ?カーツくん……。
「強そうじゃなくて、強いんだ!このワシが作ったんじゃぞ!」
と、ドワーフさんが、泡だて器の形をした何かを振り上げました。
……鬼に金棒。
金棒じゃないけど、サイズ的には金棒です。
おかしいです!
明らかに、泡だて器サイズじゃないっ!どんなでっかい卵を泡立てさせる気ですか!
鶏の卵サイズじゃないのは明らか!あ、まさか、ニワトリスじゃなくて、バジリスクの卵とかを想定してます?
巨大なバジリスクの卵なら、確かに金棒サイズの泡だて器は必要かもしれませんが……。って、私、卵を泡立てるなんて言ってませんよね?
……じゃぁ、なんで、こんなでっかくなった……。
しかも……なんか、持ち手以外の部分が怪しい輝きを放っています。
「しかし嬢ちゃん、これはよく考えられた武器だな」
は?
武器?
「あー、この上のぐねっと曲がった細いところ、全部刃になってる、すごぉーい」
……やっぱり、キリカちゃんもそう見えますか……。
「ああ、こりゃすごいぞ。この16本すべてが細い刃じゃ。細く空洞ができているから、大きさの割には軽い。そして、殺傷力はすさまじいぞ」
カーツ君が目を輝かせて巨大な泡だて器を見ています。
「一振りで16本物傷を負わせることができるのじゃ。再生能力の高いモンスターでもいちころじゃろう」
……何、それ……。
「ユーリお姉ちゃん、これ、こうやって回して使うって言ってたよな?」
はい。回して混ぜ混ぜするのが泡だて器の使い方です。
「なんと!そんなえぐい使い方まで想定しておりのか!確かに、これをこう、ぶっすり突き刺してからぐるりと回せば……」
ドワーフさんが巨大泡だて器のような姿をした、もはや何が何だか分からないものを持ち上げ、目の前に立っている木偶に突き刺した。
あああ。
木偶ぅ!
16本もの刃で一度にバラバラです。
どうやら、ハンノマさんの包丁のように、ふっと当たった瞬間にその方向に切れちゃう素敵な刃物のようで……。
木偶でさえ、この状態……。
「ふむふむ。すごいの。360度全方向に剣圧が広がる。本当に、これはすさまじい武器がを考え出したもんじゃ」
武器じゃ、ないです……。
いつもありがとうございます。
にゃーん。
泡だて器、こんなはずじゃ……




