179 フェンネル
一方で、豆……ない!
次の店にも……ない!
「大豆が……」
ない。
大豆があれば、醤油文化、味噌文化があったかもしれないので、醤油がないことから想像ができないこともなかったわけですが……。
ってことは、豆腐も作れませんね……。
がっかり。
「あの、香辛料はありますか?」
どこに売っているのか分からなかったので聞いてみた。
「香辛料?」
買ったアーモンドを袋に入れながらお店の人が首を傾げた。
「この町で香辛料を扱っている店はあったかなぁ?王都まで行けば貴族御用達の店がいくらでもあるだろうから、香辛料も売ってるだろうけどなぁ」
王都……かぁ。
「あの、香辛料って何があるんですか?」
胡椒だったらちょっと高くても無理して買いたい。王都にしかないというのなら、サーガさんとかに買ってきてもらうとか……。
ナツメグやカルダモンとかは、まぁ、手に入らなくても全然気にならない。二つとも肉の臭みを取るときによく使う種類の香辛料だ。
ああ、でも胡椒がなければカルダモンがあれば少しはいいかなぁ。
ナツメグがあるとハンバーグが少し上等な味になる。
けど、大金出して、人に買ってきてもらってまで使いたいかというと……そこまでの魅力はない。
サフランやターメリックっていうと、カレーが食べたくなるなぁ。
でも、カレーって香辛料を何種類どころかなん十種類も使ったりするんだよね……。とてもじゃないけど、作れる自信はない。
シナモンとバニラビーンズは心揺れる!
香辛料を作っているメーカーサイトで見たスパイス一覧表を思い出しながら、それを使った料理の味も思い出す。
バニラビーンズって香辛料……スパイスなんだって知ったときにはちょっと驚いた。お菓子に使うもの、甘いイメージの者と香辛料って単語がどうにも頭で結びつかなかったからね。
あとは、辛子とか唐辛子とか、山椒とか……。
ああ、生姜やニンニクも香辛料だったっけ。あと、ミント!ハーブに分類されることもあるけど、香辛料でもあるんだよね。……。
お水にミント少し風味つけたらすっきりするよねぇ……。
と、いろいろな種類の香辛料を思い浮かべていると、お店の人が衝撃の一言を発した。
「何って、香辛料は香辛料だろ?」
え?
「いえ、あの、野菜に、トマトやキュウリがあるみたいに、香辛料にも胡椒とかフェンネルとか、えっと……」
「なぁーに言ってんだ?フェンリルはモンスターだろ?」
はい?
「そうだよ、フェンリルはドラゴンみたいにとぉーっても強いモンスターだよ!」
フェンリル?
何、それ?
ドラゴンみたいに強い?
「違うよ、フェンリルじゃなくて、フェンネルっていう香辛料っていうかハーブっていうか……」
名前……似てるね、確かに。
そういえば、バジルはバジリスクの毒に対して効果があったけど、フェンネルってフェンリルと関係あるとか?
……まさかね、さすがにそういう偶然が何度もあるわけないよね?
あれ?そういえば、見たことはないけれど、玉ねぎみたいに球根っぽくなる場所は野菜として売られてることもあるって聞いたことがある。
野菜なら、もしかして、ダンジョンの上の畑に生えてる可能性が?!ハーブ類も生えてたし、もしかしなくても、もっとよく探せばいろいろ見つかる可能性が?!見慣れない野菜類はあまり手を伸ばさなかったけれど、もっと真剣に向き合わなくちゃ!
「へんな名前!なんで、フェンネルって名前なんだろ」
「なぁユーリ姉ちゃん、もしかしてそれ、青いか?」
青?
花は黄色じゃなかったかな。香辛料になる実は普通に乾燥して茶色っぽい色じゃない?
「青くはないよ?」
「そっか。フェンリルって青いモンスターだから、青いからそういう名前つけられたのかと思った」
なるほど。
「フェンリルって青いモンスターなんだね」
「姉ちゃん、子供たちのほうがよく知ってるじゃないか。その調子でしっかりいろいろ教えてもらいな」
お店の人は、他の人の接客に戻っていった。
えーっと。
確かにモンスターのことは、私よりもずっとキリカちゃんやカーツ君のほうが知ってますが……。
冒険者見習いじゃなくても、街の人ですら名前を聞くとどういうモンスターか知ってるんですね……。
私、街の人以下の知識しかないって改めて自覚しました。
ご覧いただきありがとうございます。
……ところで、「魔欠落者の収納魔法~フェンリルが住み着きました~」って知ってる?
なんか重苦しい話だけど、面白いよ。
……っていうステマ。




