178 山羊さんミルク
「あの、私たち夕方に別の方に送ってもらうことになったんです。注文した品が夕方にしか出来上がらなくて……」
「そうか。分かった。隊長に伝えておくよ。それから、荷物は先に持って帰って小屋に運び込んでおくから」
兵が布など買った品を受け取ってくれた。
「ありがとうございます。あの、よかったらいかがですか?大したものはないのですが……」
本当に大したものは出せない。補正効果がないものといえば、塩おむすびくらいなのだ。
「この、三角のは?そういえば、隊長がこの間食べていたのも見ましたが」
カーツ君がにぃっと楽しそうに笑った。
「まずい麦」
塩むすびを受け取った兵が一瞬顔をゆがめた。
米のイメージって、やっぱり悪いんだねぇ。その表情で分かったよ。
「いただきます」
とはいえ、受け取ったものを突き返すようなことはしない。兵は紳士だねぇ。意を決したようにぱくりと塩むすびにかぶりついた。
「ん?」
動きが止まった兵の顔を、もう一人の兵がのぞき込む。
「うまい。あれ?これ、まずい麦?」
「何?うまい?いや、まぁ確かに体調もおいしそうに食べてたけれど……」
もう一人の兵が塩むすびに手を伸ばす。ぱくり。
「これはいい」
パクパクと勢いよく食べて兵が満足げに微笑んだ。
「まずい麦が、こんなにうまいなんてなぁ」
「ああ、パンにするとまずいのに、これどうやって作ったんだ?」
首を傾げて笑顔を向ける。
米はおいしいんだよぉ!と大きな声で言いたい。だけど、今まずい麦の価値を上げてしまうと、安いまずい麦に食料を頼っている人たちが困ると思う。
米の供給量や、増産体制などちょっと確かめてからじゃないと危険だよね。
というわけで、ヌカを取り除く方法だとか、美味しいご飯の炊き方とかは内緒。
こんな時に使う言葉は……。
「企業秘密です」
「ん?キギョー?」
兵はそれ以上詮索しなかった。おにぎりを食べ終わったら、さっさと荷物の積み替えの仕事に戻り、積み終わると手を振って町の門をくぐっていった。
あ、サーガさんに手紙書くの忘れてた。
……まぁいいか。ローファスさんが家に行くのなら、サーガさんと会うこともあるだろうから。全く連絡が取れなくなるわけではないんだよね?
ご飯を食べ終わって、買い物の続きです。
食材を、やっと、食材を見に行くことができます!
「あ?野菜は朝市がメインだよ?」
へ?
「大体とれたての野菜を売りに来た人間は朝市で大半を売って、売れ残ったものは価格を下げて飲食店など大量消費するところに納品して午後にはかえって畑仕事だな」
なんですってぇーーーーーっ!
あ、いいんです。野菜は畑でとれるから……ぐすっ。
「牛乳?チーズ?なんだそりゃ?」
どぉぉぉーーーん、やっぱり、そうですよね。
ないかなぁとは薄々思っていたんですよ。
「山羊の乳?なんだ?赤ん坊でも生まれたのか?それなら、注文しておけば次から毎日絞って持ってきてくれるよ」
なんか、ポーションをミルクで薄めて与えるって話を聞いたことがあったからミルクについて聞いてみた結果。
注文制!
そうですよね。腐りやすいですもんね……。
それにそこそこ貴重品みたいで、赤ちゃん優先のようです。
そうですか……。
赤ちゃんは宝物ですから。素晴らしいシステムですね。はい。優先しなくちゃいけません。
「そうだ!豆乳!」
豆乳って、豆乳ヨーグルトや豆乳チーズも作れるんだよ!
豆乳チーズの材料は豆乳と塩とレモン汁だけ!味はナチュラルチーズのようにおいしいらしいけど、チーズのように伸びないので人気がないとか。
味がチーズならいいの!
豆乳は、大豆。
大豆を探します。
朝市が終わってしまっているけれど、保存食を扱う店はまだ開いてる。
麦、まずい麦、芋、……麦の半分くらいの値段なんだね。米。豆類は?豆類!
……アーモンドがあった。ナッツ類は比較的豊富にあるみたい。カシューナッツっぽいのもある。
いつもありがとうございます。
山羊もダメでしたー。




