174 布選び
母親を亡くし、冒険者見習いとして頑張っている、その心の支えがこのベストなのかもしれない。
「多めに布を足して、寄せて縫っておけば、体が大きくなったらその寄せた部分の糸をほどけばまたすぐにサイズが調整できると思うの」
おはしょりじゃなくてなんて言うんだっけ。
「デザインはどうしようね。よく似た色の布を継ぎ足すか、まるっきり別の色を継ぎ足すか」
「えっと、あの、キリカ……どうしよう」
キリカちゃんの涙が乾いたので、立ち上がる。
「布を見てから決めましょうか」
よく似た色の布があればいいし、もしかすると布の種類が少ししかなくて似た色がないかもしれない。
「なー、まだかぁ?そろそろお昼だぞぉ」
布イコール洋服だと思えば、選ぶのに時間がかかるのは仕方ありません。
古今東西女性が洋服を選ぶのは時間がかかると相場が決まっているのです。
しかも、この世界では、自分で選んだ服なんてめったに着られないようですから。
そして、待たされるのはいつも男……。ごめん、カーツ君。
布の値段もそこそこ高かった。
服を買うよりは安いけれど、機械じゃなくて手織りだと考えると、洋服1着分の布を織る手間を考えると仕方がないですよね。
下着とパジャマ用の布を買う。
パジャマなんて贅沢品を!というわけじゃなくて、あまりむつかしい形の服が作れないので。パジャマのように、ダボッとしたシャツとズボンなら家庭科の授業でも作ったので失敗もないはずなの。
で、今着てる服は、夜洗って乾かしておけば、着替えがパジャマで問題ないよね。布が高いので失敗するわけにいかないので、もう少し裁縫に自信持てたらパジャマ以外の外着を作ろうと思います。
それからエプロン。
お手伝いをたくさんしてくれる、キリカちゃんとカーツ君にエプロンを作ってあげようと思うのです。みんな贅沢に着替えを持ちるわけじゃないから。汚さないようにね。
それから、できればリュックが作りたい。
背負いカゴや、ひものついた背負うこともできる袋みたいなものはある。
だけれど、しっかり背中に背負うリュックというのがない。
クッション性のある太めの肩紐にするだけで、荷物の負担が軽くなると思うんだよね。
だって、見つけちゃったんだもん。
畑に。まだ葉っぱだけだから実がなるのは先だけど。
いくら多少上り下りがしやすくなったからと言っても、やっぱり両手にものを抱えて降りるのはむつかしい。
重たくて、落とすと割れるものは、重たいものを入れても大丈夫なリュックに入れるといいと思うの。
というわけで、丈夫な布も買おうと思うのです。
「あと、丈夫な布はないですか?」
「丈夫?どれくらい丈夫なものを探してるんだい?」
「重たい荷物を持ち運ぶカバンを作りたいんですけど」
「ああ、だったら、布じゃなくて、皮のがいいんじゃないか?皮なら布なんかよりよっぽど丈夫なものあるぞ?」
皮!
そうか、日本でもカバンと言えば皮!帆布みたいなの想像してたけど、皮の丈夫なカバンあるじゃない。しかも背中に背負うやつ!
そう、ランドセル!
って、ランドセルは作らないけど……じゃなくて、作れないって!
皮も、ちょっと怪しいなぁ。針、通るのかな?普通の糸じゃだめだよね?
ランドセル作るのって、確か目打ちっていうの?糸を通す穴をあけて、そこに糸を通していたはず。……
革のカバンはどうだったかなぁ。ナイロンバックばかり使っていたからよく分からない。
「カーツくんっ、それ!」
「どれ?」
カーツ君のベルト。ベルトにナイフとか短剣とか革で作られた収納するやつがついてる。
皮製品の縫製見れば自分でもできそうかわかるかな?
「ちょっと見せてもらっていい?」
「ああ、いいけど」
前かがみになって、カーツ君のベルトをじっくり見る。
ギュルルーン。
おや?
カーツ君のお腹から音が聞こえました。
「あ、ごめん、そうだね、もうお昼だ。えっと、ご飯食べましょうか」
つい何が作れるかなと夢中になってしまった。
ご飯食べながら考えれば時間の節約になるよね。
軍の人との待ち合わせはお昼しょっとすぎ。待ち合わせ場所は街に入ってきた門の近く。
「帰りは送らなくてもいいとまだ伝えていないので、門の近くで兵を待ちながらご飯を食べましょうか」
「うん!キリカ賛成なの!」
入ってきた人たちが立ち止まっても、出入り口が詰まって渋滞をおこさないように、門の近くは広場になっていたし、ちょうどいい。
「じゃぁ、食べましょう、いただきます」
両手を合わせていただきますは日本の習慣。この世界では特に決まりはないけれど、キリカちゃんもカーツくんも私のいただきますを真似はしないけれど、終わるのを待ってから食事に手を付けるようになった。
いつもありがとうざいます。
リュックって、久しぶりに使うと楽ですよねー。
何を入れたくて作るつもりなのでしょうね?畑で何を見つけたのかな?