173 あ、あれ?
「さすがのワシでも昼すぎまでというのは無理じゃ。……馬車が必要というのであれば、ワシが何とかしてやる。夕方、取りに来い」
馬車をなんとかしてくれるって言っても……。
どうしよう。
「ハンノマはいつ帰ってくるか分からんじゃろ。ワシも明日には別の街に移動するつもりじゃ。今日しかないぞ?」
今日しか?
う、う、これ、これって、今なら半額みたいな、〇時までのお申し込みの方だけ特別におまけつきみたいな……タイムバーゲンみたいな、……早く決めないと損しちゃうよっていう心理を利用して、考える時間を与えず契約させるなんたら商法みたいな……。
もしかして、作っておいて、すごい値段吹っ掛けられるとか、そういうなんか……?
えっと、これ、どうしたら……。
「なー、ユーリ姉ちゃん馬車を何とかしてくれるんなら頼めばいいじゃん。街もゆっくり見て回れるし」
ゆっくり街を……。
確かに、まだ服も見たいし、食材も見てないし……。できれば見慣れない食材が売ってたら、どういう料理に使うのか話も聞きたいし。
ゆっくりできるのはありがたい。でも……。
「あ、あの、せっかくなのですが、お金が……」
まさか吹っ掛けるつもりじゃないですかとも言えず、言葉を濁す。
「ユーリお姉ちゃん、お金が足りなかったら、キリカも出すのよ!」
キリカちゃんがずっと大事に握り締めていた銀貨を手のひらにのせて差し出した。
「キリカちゃん……」
カーツ君も、ぽっけから銀貨を取り出す。
「俺も。足しにしてくれよっ!」
ああ、二人とも!欲しいものもあるだろうし、将来に備えてお金を貯める必要もあるだろうに……。
やっぱり、断ろう。
泡だて器がなくたって、フォークで頑張る!
「金がないじゃと?」
ドワーフさんの目が座った。
「ワシ、金の話などしとらんじゃろ」
は、はい。してないです。
だから、いくらかかるか分かりません。
「金などいらんっ!ワシ、これ作りたいんじゃ!作らせてくれ!な、頼む!初めて見た、この形、このフォルム、作らせてくれよーっ」
はい?
「お願いじゃよ、ワシに作らせてくれ。絶対いいものにするから、他の人に頼まないでくれよ、ハンノマにだって作らせちゃだめじゃ。ワシが初めに作るんじゃっ!」
ドワーフさんが小さな子供のように首をぶんぶん振って主張し始めた。
「あ、あの、お金、その……」
後でぼったくるとかじゃないんですね……。ご、ごめんなさい……。
「あ、あの、金貨、金貨1枚なら出せますので、そ、それでその、作ってください」
「なぬ?作っていいのか?よし、じゃぁ、夕方な。夕方取りに来い」
奥の作業場に、泡だて器の絵を持ってドワーフさんがすっ飛んでいった。
「……」
泡だて器のどこがそんなに魅力的だったのでしょう?
なんか、商売の感でも働いた?
これは売れる!とひらめいたとか?
……もしそうなら、足りないお金は泡だて器を作って売って補ってもらえばいいのかな?
トンテンカンカーン、トンテンカンカーン。
さっそく金属を打ち鳴らす音が聞こえてきた。
「ユーリお姉ちゃん、これ」
銀貨をキリカちゃんが差し出した。
小さな手のひらに乗っている、大切な銀貨。
キリカちゃんの手を持ち、しっかりと握らせる。
「これは、キリカちゃんが大切に使えばいいのよ」
「え?でも、ユーリお姉ちゃんお金がないって」
心配そうな顔をするキリカちゃん。
「うん、無駄に使うお金がないだけで、ほら、泡だて器は料理関係だから大丈夫。作ってもらうのにあまり高額だったら無駄遣いになるからお金がないって言っただけで……」
ブラックカードを見せる。
「そうか。確かに料理に使うならカードで買い物ができるんだから、確か金貨10枚まで使えたんだよな?」
「カーツくんもありがとう。そのお金はカーツ君が大切に使って……夕方まで時間ができたから、ゆっくり買い物もできるし、何かいいものが見つかるといいね」
まずは、軍の人に帰りは別でと伝えなければいけない。
ああ、そうするとサーガさんにもう会うことはなくなるかな。
手紙を持って行ってもらおうか。
どうも。ご覧いただきありがとうございます。
ドワーフさん、ちょっと愉快な人でした。
ワシに作らせてくれよー!
……大丈夫かのぉ。




