171 ハンノマさんのお店に
「見たことがないけど、オーダーメイドで作ってもらえばいいんじゃないのか?」
最期の希望で足を運んだお店のおじさんが、落ち込みまくっている私に同情したのか声をかけてくれた。
「オーダーメイド?」
「ああ、ちょっと高くなるが、どうしても必要というのであれば、付くてもらえばいいだろう」
そ、その手があったか!
大量生産、工場製品、そんな日本に住んでいたからこその盲点!
ないなら作ってもらえばいいじゃなぁい!っていうことですね!
「そっか!」
カーツくんが手をぽんっと打つ。
「ありがとうおっちゃん。行こうぜ、ユーリ姉ちゃん!」
カーツ君が私の手を引いて歩き出した。
「カーツ君、待って、もう少し、誰に作ってもらえばいいのか聞かないと……」
「金属製品だろ?だったら、ハンノマさんに頼めばいいよ」
ハンノマさん……鍛冶屋なんだっけ?
でも、鍛冶屋って、武器とか作る人じゃない?……?それとも金属製品なら武器だけじゃなくてフライパンとか鍋とかなんでも作ってくれるのかな?
たしかに、包丁も作ってたし。調理器具なら作ってくれるかな?日本だと、鉄工所と鍛冶屋は別なんだよね。
鍛冶屋は鍛造するところで、鍋とか加工するだけなら鉄工所……だったっけ?そんな細かく分業されてるのかな?
いいや。とりあえず、ハンノマさんのところに行って、ハンノマさんに作ってもらえないようなら、別の人を紹介してもらえば。
そうそう、お礼にクッキーも渡そうと思ってたんだから、ちょうどいいや。
……あれ?
でも、なんか、忘れてるような?
「ハンノマならおらんぞ」
ハンノマさんの店に行くと、見知らぬドワーフのおじさんが酒瓶片手にカウンターの前に座っていた。
「ほれ、旅に出るって紙があるじゃろ」
あーっ!
そうだった!
何か忘れていると思ったら!
ゴムの木を探しに、ハンノマさん旅に出たんだった!そうだよ、あれからまだ少ししかたってないもん!帰ってるわけないよね!
「あ、あの、あなたは?」
ハンノマさんが旅に出ているのは分かったけれど、まるで自分の店のようにくつろぐこのドワーフさんは誰なのでしょう?
家族でしょうか?兄とか?従兄弟とか?
正直、ずんぐりむっくり背が低くて、顔の半分が髭に覆われていて、ドワーフさんの顔は皆そっくりに見えます……。
あ、別にドワーフに限りませんね。10代の子に人気のアイドルグループのメンバーの顔の見分けもつきません……。
「あー、名乗るほどの者でもない。で、ハンノマに何の用だったんじゃ?」
ぐびぐびと酒瓶をあおるドワーフさん。
「これ、作ってもらおうと思って来たんだけど」
カーツ君が、私の描いた泡だて器の絵をドワーフさんに見せた。
そのとたん、ドワーフさんの手から酒瓶が落ち、床に倒れて中身がこぼれだす。
「ああ、こぼれちゃう」
慌てて拾い上げて、カウンターの上に瓶を置く。
「こ、これは……誰がこれを?」
「私です」
カーツ君から紙を奪うようにして手に取り、食い入るように泡だて器の絵を見ている。とてもお酒を飲んでいるように思えないくらいしゃっきりしているように見える。
「ワシが作ってやろう」
「え?本当に、いいんですか?」
「いいもくそもあるか!このワシが作らずして、誰が作るというのじゃ!娘、運がいいぞ、最高のものを作ってやる」
よかった。
泡だて器が手に入りそう。って、その前に確認しなくちゃ。
「あの、どれくらいかかりますか?」
もし、金額がめちゃくちゃ高かったらあきらめなくちゃいけない。
……もしくは、ローファスさんに泡だて器にそれだけのお金を使ってもいいのか尋ねてから注文しなくちゃいけない。
「3日じゃ」
「あ、そうじゃなくて、どれくらいっていうのは」
金額の話なんですけどと訂正しようとしたら、ドワーフさんがにやりと笑った。
「ハンノマなら、3日かかるじゃろうな。だが、ワシなら夕方までに作ってやる」
「え?そんなに早くできるんですか?」
「でも、夕方だと待ち合わせに間に合わないのよ、キリカ達、お昼ちょっとすぎには待ち合わせに行かないと馬車にのせてもらえないの」
ドワーフさんの眉が上がり、ふさふさの眉であまり見えていなかった目がギラリと見えた。
いつもありがとうございます。
このドワーフさんは、まさか!




