165 徹夜
ブライス君が水をグラスに注いで飲む。それから、水を水筒に入れて外に出ていった。
どこ行くんだろう?こんな夜に。
気になってドアを開いて歩いて行くブライス君の背中を見る。暗いから、どこへ行ったのか距離が開くとすぐに見失ってしまったけれど……。
少し離れた場所に、魔法の光で明るくなっている場所が見えた。
「……小屋……鶏小屋」
そうか。鶏小屋、じゃない、ニワトリスの小屋を作っていたんだ。そうか、明日出ていくということは、明日までに完成させておかなければならないってことか……。
どれくらいできているのかな?いつできるのかな?
……もしかして、徹夜になる?
……。
一つだけの卵を見る。
しばらく、ローファスさんもブライスくんも来られないんだよね。
私たちは、小屋にいるから、卵はすぐに食べられる……。
卵を手に取る。
「一つ……かぁ……」
何が作れる?
今から畑に行くわけにもいかない。外は真っ暗なのだから。
あるもの。
「塩、小麦粉、砂糖、各種ポーション、それからパンとじゃがいも、干し肉、鶏肉、ニンジンと玉ねぎ」
ま、あれか。
あれだよね。うん、明日のお弁当にもなるし。
それから、ご飯も炊くことにしよう。
オーブンの様子を見ながら、ご飯を炊いて、ジャガイモの皮をむく。
クッキーは、うっかり食べられないように、私の部屋に運び込むことにした。
許可がないと入れない部屋って、便利だねぇ。
……まさか、つまみ食い防止に使うとは思わなかったけど。
炊けたごはんで、塩おむすびを作ってテーブルに置く。
……わかるかな。
手紙を添える。
ローファスさんとブライス君へ。夜食です。良かったらどうぞ。日本語だけど、鑑定してもらえば伝わるはず。……夜食ってなんだ?とか、そういうことがなければ……。ちょっと不安になったので食べられそうなら食べてください。朝ごはんじゃなくて、夜遅くまで働いている人用のご飯です。と書き加えた。……夜遅くまで働くともう一回ご飯が食べられるのか!だったら、俺は毎日夜遅くまでとか馬鹿なことをローファスさんが言い出すとも、その時の私は想像もできなかった……。普通は想像しないよね?私、悪くないよね?ローファスさんのパーティーがブラック企業ならぬ、ブラックパーティーになるとか……そんなの、私のせいじゃないもの!
そう。夜食と言えばおにぎり。汗をかくと塩分取らなくちゃいけないしね。
それから、ジャガイモのほうも作って部屋に保護。
……。
明日のお弁当がなくなるといけないからね。
あ、朝食はどうしようか?
鶏肉、使っちゃおう。
朝から揚げ物はさすがにないから。ご飯と鶏肉と、あとはサラダでいいよね。朝採れたて野菜のサラダ。
うん。下ごしらえは出来上がり。部屋に運んで。
テーブルの上には塩おむすびだけ残して、おやすみなさい。
「ふいー、腹減ったぁ!」
多めにと思って作っておいた塩むすびはすっかりなくなっていた。
朝食の準備をしていると、ローファスさんとブライス君が小屋に入ってきた。
うっ。
汗臭くて泥臭くて汚い……。でも、これは……、鶏小屋を急いで作るために汚れたんだよね。
……徹夜……で。
「お疲れ様です」
濡れタオルを二人に手渡す。まぁ、日本のようなタオルはないので、濡れ布って言えばいいのかな。手ぬぐいとも違って、四角い布切れ。
風呂敷みたいな感じって言えばいいのかな。それをタオル代わりにしたり、物を包んで運ぶのに使ったりまぁ、衛生面とかそっちが大丈夫そうなことにはひたすら使いまわすみたいで。だから、手ぬぐいのように細長い形にはなっていない。
「ああ、ありがとう」
ローファスさんが顔をふいた。
「はー、気持ちいな。ユーリ、お前気が利くなぁ。夜食もうまかった。ありがとう」
気が利く?特別なことなんて何もしてないけどなぁ。
「ありがとう、ユーリさん……。それから、あの、一つわがままを言っていいですか?」
ブライス君がわがまま?
なんだろう。普段からわがままなんて言わないしっかり者で人に気を遣うブライス君が?
ご覧いただきありがとうございます。
食べられないように部屋に……くっふふっ、ローファスさん信用ないわw




