161 王立薬研究所
「い、いりませんっ!子供たちが助かるんでしょう?登録したほうが情報が早く広がるなら登録は必要かもしれないですけど、使用料とかはいいです、そ、それに……」
「え?」
「もう少し研究したらいいと思うんです、形を変えると効果があるかどうか分かりませんし。効果がある分量も、子供と大人では違う気がしますし。あの、もし、少量でも効果があるのなら、粉とか丸薬とかにして持ち歩くことができれば荷物も減るし、長期保存もできるんじゃないかと……あ、もちろん、丸薬にしてからどれくらい効果が続くかも研究しないと分からないとは思うんですが」
唖然としているサーガさん。
「いえ、あの、私が研究するとかじゃなくて、そういう研究機関とか、ないんですか?」
サーガさんがローファスさんの顔を見た。
「薬の研究にまで言及するとは……、兄さん、ユーリちゃんはいったい……」
え?
「やはり、養子に……。父さんが知れば、確実に養子にすると言い出すでしょう、知られる前に、私が……」
はい?
「ユーリちゃん、私の養子に」
なんでそうなる!
「お断りします!」
「じゃぁ、仕方がないので、兄さんの養子に……」
だから、なんでそうなる!
「サーガ、仕方がないってどういうことだ!それに勝手にユーリを養子にするとか話をするなよっ!」
そうです、そうです。
「養子にすれば、美味しい料理が毎日食べられるのにね、兄さん」
あ?サーガさん……。
「ユーリ、俺の養子になるか?」
「全力で、お断りします。っていうか、私、大したこと言ってませんよね?ブライス君が火を通す実験をしたことの延長みたいなの、そういうのするところあるんですよね?」
ローファスさんが答える。
「まぁ、あるにはあるが……。主に調べるのは効果だ。さっきブライスがしたようにな。分量だとか持ち運びのこと、形を変えるなんて……そもそも粉にする?小麦粉みたいにということ?だとか、がんやくっていうのはどんなものですか?薬草類はそのまま口にするかすりつぶして液体状にして飲むかどちらかですよ」
なーんーでー。
この世界の文明、どうなってるの?
薬って、もうちょっと研究する機関があるなら発展してるよね?
なんで、高々粉薬とか丸薬とか言っただけで「すげー」って思われちゃうの?
うぐぐぐっ。
「そうですね。ポーションのように直接液体としてドロップするものがほとんどですし、薬もダンジョンでドロップした薬草はそのまま持ち歩くのが普通です。調薬する種類の薬は、ほとんどがすりつぶしてポーションと混ぜて作りますし」
そういうことか!
ポーションの存在が、薬は液体状という感覚が強くなる原因なんだ。
あとは、ダンジョンで入手してそのまま使う場合はかじるとかそういう感じだから、加工する意識がないのか。
あー、ここでもまたカルチャーショック。
ポーションって割とごくごく飲んじゃってるみたいだし、制限は子供は中級は何本、上級は駄目みたいなアバウトなものしかなかったよね。
でもって、ポーションとかじゃなんともならなさそうなのは、神殿に行って、聖水だとかなんか言ってたし……。
なるほど。現代みたいなグラムやミリグラムどころか、マイクロなんたらっていう単位での薬の効果だとか副作用だとかそういう常識とは違うわけね……。
うう、むつかしい。うかつなことは言えないです。
「研究所はありますよ。王立薬研究所が……」
お、王立!
「ぜひ、ユーリちゃんの考えを話してほしいですが……」
サーガさんが困った顔をする。
「ああ、間違いなく、あいつならユーリを研究所にくれと言うだろうな……。ユーリ、研究所に入る気があるか?」
研究所に就職するっていうこと?
「給料は騎士よりもいいって聞くな」
給料もらって生活できるんであれば、それって、自立したってことになる?
「研究成果を出せば、陛下から褒賞が与えられることもありますよ」
サーガさんがにこっと笑う。
うっ。
王様から褒賞……授賞式とかあったり?うわ。やだ。無理。
そもそも、私、薬の知識どころかこの世界の常識すらないんだよ。
偶然日本の知識がちょこっと役にたつことがあっても、薬の研究なんて無理。それに、常識もないのに王様とかがいるようなところに近づきたくないよ。
無礼者打ち首にいたせ!とか言われて牢屋にぶち込まれるとか……ううう。怖い。




