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160 ブライス的実験

 お、おおう……辛い。心が辛いと言っている。ローファスさんの心が、私とシンクロ……。

「ち、違うんです、そんなつもりじゃなくて……」

「ユーリさん、そんな顔しなくても大丈夫ですよ。ローファスさんが独り身なのは好きで独り身なんですから。さぁ、では実験しましょう」

 ブライス君のフォローが胸に奥にぐっと突き刺さる。

 悪気がない言葉だってわかってる。

 好きで独り身……私は、好きで子供がいないわけじゃない……。

 欲しかった。

 欲しかった。

 欲しかったんだよ……。キリカちゃんくらいの子供もカーツくんくらいの子供も……10年結婚してたんだから、いたって不思議じゃなかったんだよ……。

「実験?何をする気だ?」

 ローファスさんの声がもとに戻っている。もうショックから立ち直ったみたいだ。

「【火】」

 ブライス君が麻痺回避草に火をつける。

「サーガさん、麻痺薬持ってるでしょう?」

「あ?ああ、暴れる囚人を黙らせたりするのに使うものを持っているが、どうするんだ?」

「実験ですよ。少しもらえますか?」

 ブライス君が、サーガさんから小さな小さな瓶を受け取る。

「ステータスオープン、僕はまだ麻痺回復草を使った料理を食べていないので、耐麻痺効果はついていませんから」

 小さな瓶のふたを開けて、臭いをかぐように鼻に近づけた。

 すると、すぐに大きくビクンとブライス君の体が跳ね上がる。手に持っていた小瓶が落ちるのを、サーガさんがキャッチ。

 そして、痙攣するようにびくびくと動いて椅子から落ちそうになったブライス君を、ローファスさんが抱えた。

「何してるんだ、ブライス!」

「ブライスお兄ちゃん、大丈夫?」

 ブライス君が半分白目をむきながらも、先ほど焼いた麻痺回復草を振るえる手で指さす。

「分かった。実験だ。ブライス兄ちゃんっ!」

 カーツ君が焦げ跡の残る麻痺回復草をブライス君の口に運ぶ。

 プルプルと震える唇で、ブライス君が麻痺回復草をかじる。

 すると、すぐに、震えは収まった。

「ふっ」

 ブライス君が笑う。

「だ、大丈夫なの?」

 何も、動けなかった。

 落ちる瓶を受け止めたサーガさん、ブライス君の体を支えたローファスさん、声をかけたキリカちゃん、そして冷静にブライス君に麻痺回復草を渡したカーツ君。

 私一人、ただ、何もできずに……。驚いて立ちすくんだままになってしまった。

 ダメだ……。

 これ、もし、ダンジョンで、仲間がモンスターに襲われてけがをしたという場面だったら、動かなきゃだめだ。

 びっくりして動けないとか……もっと、もっと、私、とっさの時に動けるように心も鍛えなくちゃだめだ。

「最高ですよ、ユーリさん。見たでしょう?僕は麻痺したけれど、麻痺回復草ですぐに状態異常は戻りました」

 ああ、あれが麻痺した状態。

 今度、もし誰かが同じ状態になったら、麻痺回復草を食べさせるのね。

 大丈夫、覚えた。

 覚えたよ。一つ。今度はちゃんと動けるように、ちゃんと覚えた。

「麻痺回復草、鼻に抜けるような刺激、辛みもなかっんです。これなら、たとえ子供が麻痺したとしても、躊躇なく麻痺回復草が使えますよ」

「なるほど、火を通す。それだけで麻痺回復草の最大の問題点だった味が解決できるということか!それはいいですね!」

 サーガさんが手を叩いた。

 日本でも良薬口に苦しなんて言葉はあるけれど……。

 薬がわさびだったら、うん。子供はそりゃ辛いよね。

 味が苦い薬はオブラートに包んだり、カプセルに入れたり……小さな子供だと、それも無理だから最近では飲みやすいようにお薬のもうねゼリーみたいなものが売っていて……。

「ユーリさんのおかげで、麻痺回復草を子供たちにも問題なく使えるようになりそうです」

 サーガさんが私の手を取った。

「まて、サーガ、新しい発見は」

「分かってますよ兄さん。ちゃんとユーリさんの名前でギルドに報告して使用料を」

 え?


ご覧いただき感謝です。

ぶ、ブライス君、お、お前はまさか……え、え、え、……えm

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