159 落ちてきた
麻痺回復草は、時々買ってもらおう。あ、栽培もできるのかな?できるなら畑の片隅にでも植えて育てれば。
本わさび、いわゆる和わさびは山のきれいな水のあるとか、いろいろ栽培条件厳しいけれど、山わさび、西洋わさびっていわれるものはプランター栽培もできるってどこかで聞いたことがある。あ、確か北海道出身の子が「庭で普通に作るよね?」とか言っていたのかな。
「おいしい!麻痺してもキリカ、これなら食べられるよ」
うん?
「火を通して辛みを飛ばしても、麻痺回復の効果ってあるの?」
ブライス君がはっとする。
「ローファスさん、麻痺回復草ください」
「ブライス、おまえはいつも、そうほいほい俺がお前の欲しいものを出せるとなんで思っているのか」
とローファスさんがぶつぶつ言うと、サーガさんが立ちあがった。
「取ってきますよ」
「ありがとうございます、サーガさん」
ブライス君がお礼を言うと、ローファスさんが立ちあがって、サーガさんの肩を上から押しこんで椅子に座らせた。
「持ってるって。ほら、ブライス」
ローファスさんが小屋の隅に置いた袋から麻痺回復草を取り出してブライス君に渡した。
ふふっ。ローファスさん、サーガさんに対抗心燃やした?
……あれ?何か違和感……。
まって、なんだろう……。
「あ!」
そうだ。
「あの、契約とかいいんですか?物を必要とするとき、与えたりせずダンジョンルールでえっと……」
確かポーション一つ借りたりするときにも、契約、等価返却みたいななんかあったと思うんだけど……。
「ああ、ダンジョンルールな。ここはダンジョンじゃないし、ブライスは卒業したし」
ああ、確かにブライス君はもう小屋は卒業したわけだった。
でも、私は小屋でダンジョンルールを守らなければいけない身。
よく考えたら、塩が欲しいだの、砂糖が欲しいだの……って、契約必要なことじゃ?
「あ、あの、私、ずいぶんダンジョンルール無視して塩が欲しいとか、なんか……」
サーガさんがローファスさんを見た。
「兄さん、ここでは塩一つ契約しないと手に入れられないシステムなんですか?」
ローファスさんが腕を組んで考え込んだ。
「ユーリが契約して塩を手に入れるとするだろう、契約条件はきっと、塩一袋、塩を使った料理で返済――みたいな。キリカがさっき取ってきたリンゴもサーガ、食べただろう?何か契約したか?」
サーガが首を横に振る。
「そういえば、キリカちゃんが取ってきたリンゴを、なんのお返しもせずに……」
サーガさんがキリカちゃんを見た。
「あのね、だって、サーガお兄ちゃん、コカトリスの小屋を作ってくれてるんでしょう?キリカこそ、リンゴでお礼になるなら嬉しいの」
キリカちゃんの言葉に、ローファスさんが立ちあがった。
「キ、キリカ……」
ずいぶんショックを受けた顔をしている。
「な、なんでだ?なんでなんだ?……」
「なぁに?ローファスさん」
キリカちゃんが首を傾げる。リンゴがお礼というのが気に入らないのか?
「なぜ、俺がローファスさんで、サーガは、サーガお兄ちゃんなんだっ!」
ガクッ。
ローファスさんの気になったポイントはそこなの?
そこ、なの?
「そりゃ、ローファスさんがお兄さんって年齢じゃないからじゃないですか?」
どすっと、言葉の矢がローファスさんの胸に刺さった幻影が見えた。
ブライス君の言葉に、心の中で、私もお姉ちゃんって年齢じゃないんだけど……と、つぶやく。
ってことは、問題は年齢じゃなくて、あれですね。
「うーん、見た目?」
カーツ君が放った言葉の矢が、ローファスさんの頭にずさっと刺さった幻影も見える。
フォローしておこうかな……。うん、そう、見ていられないくらい打ちひしがれているので、フォローしておこう。
「ほ、ほら、ローファスさんは、小屋の責任者で、キリカちゃんにとっては親代わりみたいなものだからじゃないですか?」
大家と店子とか、寮母とか、なんかこう、親子関係みたいなのにあてはめたりするもんね。うん。
ドゴーンと、でっかい言葉の岩が、ローファスさんの頭の上に落ちて来た……ような幻影が見えた。
「あーははははっ。親、親代わりか。ユーリちゃんはうまいこと言う。まさに、兄さんの年ならキリカちゃんくらいの子供がいてもおかしくないですからね」
あ、あああっ。
ドゴーン。
大きな岩が私の頭の上にも落ちて来た。
は、はい。三十路です。キリカちゃんどころか、カーツくんくらいの子供がいても不思議じゃない年齢ですよ、私……。
いつもありがとうございまーす。てんてててーん。
キリカちゃんの無意識ディスでローファスさんにダメージを与えた。
キリカちゃんの無意識ディスがユーリにダメージを与えた。
キリカちゃんの無邪気がレベルアップした。