156 リンゴ試食
「ローファスさん、なんでもねぇよ。ハズレ魔石とかをユーリ姉ちゃんが知らなったから、魔石にもハズレがあるって話をしてただけで」
カーツ君がキリカちゃんの口を押えて話を遮った。
「そうです。まさか、魔石にも当たりだとかハズレだとかがあるとは思わなくて」
「ユーリは本当に何にも知らねぇよな」
ぽんっと、いつものようにローファスさんが私の頭をなでた。
「今度、本を持ってきてやるって約束、魔石やポーションや、それ以外のダンジョンのこと書いたやつも持ってきてやる」
「ありがとう」
素直に感謝。
知らないことが多すぎるので、いろいろ本を読んで知ることができるのはありがたいです。
「あ、魔法のことも知りたいです」
「魔法……かぁ。……ん、分かった。なんか探してみる」
あれ?そういえば、ブライス君はレベルが10になる前にずいぶん魔法について勉強していたみたいなこと言っていたけど、ローファスさんは独学でどうのと……。
「で、ローファスさんは何しに来たんですか?」
「あ、ああ。喉が渇いたからな」
コップに水をついでごくごくと3杯ほど飲んでローファスさんはすぐに出ていった。
「カーツお兄ちゃんっ、何するの!」
今まで口をふさがれていたキリカちゃんがカーツ君に文句を言う。
「バカ、キリカ!鰹節がおいしいなんてローファスさんに知られてみろ」
ん?
「また、ハズレ魔石を取ってくるって飛び出そうとするかもしれないね。そっか、カーツくん偉い」
それで内緒にしたのか。
「違う、ユーリ姉ちゃん……。俺らだけで食べたって知られたら、なぜ俺の分を残してくれなかったんだっていろいろ言われる……とくに、キリカがほとんど食べちゃったなんて言ったら……いや、言わないけど」
キリカちゃんがサーっと顔を青くした。
「うん。分かった。カーツお兄ちゃんありがとう。キリカ、鰹節がおいしかったって、ローファスさんに知られないようにする」
まさか、子供に対して、自分に黙っておいしいもの食べたって知ったからって……、あ、いや、ローファスさんなら……。俺も食べたかったって、ぐずぐずうるさそう……なのは、間違いない……ですね。
飲み物……。
そういえば、水しかないんですね。
お茶類はない。お茶の葉って高級品?それともこの世界ではまだない?
ハーブティーにできそうなもの、畑にあったかなぁ?
「あ、そうだ」
キリカちゃんが取ってきてくれたリンゴ。甘いリンゴかな?酸っぱいリンゴかな?変な渋みがある?
「リンゴ、洗ってきてくれる?」
「分かった!キリカ洗ってくる!」
まずは1つ味見。生でおいしければ生で食べる。酸っぱいリンゴはお菓子にするとおいしくなる。
ジャムを作るのもいいよね。リンゴジャム……。砂糖を少しだけ使おう。あと、ポーションとMPポーションも少しずつ使おう。
アップルパイは、パイ生地に必要なバターがないからダメだ。
あ、おやつに、リンゴチップスを作ってみようか。甘酸っぱくってぱりぱりっと食べるリンゴチップス、油で揚げて砂糖をまぶすとおいしいんだ。
……いや、砂糖は贅沢品だからダメかな。リンゴチップスじゃなくて、ドライフルーツかな。リンゴを薄く切って天日干し。
「洗ってきたよ!」
「ありがとう。じゃぁ、味見してみよう」
リンゴとキャベツを混ぜたサラダもいいなぁ。ああ、まずはリンゴドレッシングにしてみようか。油があるから。
皮をむいて、切って芯を取る。
「はい、どうぞ」
ウサギリンゴにしようかとも思ったけど、どんな味か分からないので止めました。
「いただきます」
みんなで一斉にリンゴを口に入れる。
「おいしいのぉ」
キリカちゃんがぱぁーっと表情を明るくした。
「うん。シャキシャキで水分もいっぱいで、のども潤うな」
カーツ君も満足そうだ。
えーっと、私ですか。
なんというか、酸っぱくはない。渋くもない。リンゴとしてシャキシャキしてみずみずしくはある。
でも、とりわけ甘くもない。
まぁ、そうだよね。糖度の高いものに慣れすぎなんだろうなぁ。
いつもありがとう。
9月になりました。
まだまだ暑い日が続く……ところも多いようですので、お体にはお気をつけくださいませ。




