151 守り
ブライス君の言葉に、ローファスさんがうんうんとうなづく。
「そうだな。高度鑑定魔法の依頼なんて、どれだけの依頼料がもらえるか。っていうか、ブライス、おまえ、高度鑑定魔法を受けるだけで、ダンジョンに潜らなくても稼げるんじゃないか?」
ローファスさんの言葉に、ブライス君の眉根が寄った。
「僕は、鑑定士になるつもりはないですよ。冒険者になります。冒険者になって、ユーリさんを守れるようになります。今回のように……誰かに守ってもらえる存在でい続けるのはごめんです」
誰かに守ってもらい続ける存在……。
主人の言葉を思い出す。「誰に養ってもらっていると思うんだ。おまえが家の中でぬくぬくと過ごせるのは、俺が世間の荒波から守ってやってるからだと忘れるな!」
……私、守ってもらっていたの?守られているだけの存在だったの?
「ブライス君、私も、守られるだけの存在になんてなりたくない……」
いやだ。
もう、戻りたくない。
そんな人間に戻りたくない。
私は、自立するんだ。
「あ、ユーリさん、すいません。その、ユーリさんを庇護対象として言ったわけではなくて……僕は、あの……」
「うん、ブライス君に悪気がないのは分かってる。私は確かに弱いのも自覚してる。それでも……。一方的に守られるだけではなく、助け合える人間になりたい」
ローファスさんがブライス君の頭をなでる。
「もう、十分助け合える存在だと俺は思ってるけどなぁ。ユーリお前もだ」
反対の手で私の頭もなでる。
「私が?」
ハンノマ印の包丁でバジリスクをやっつけたこと?
「そうですね。ユーリちゃんは兄さんを助けてくれていると思いますよ。それに、カーツ君やキリカちゃんやブライス君、そして私も」
サーガさんの言葉に首を傾げる。
「兄さんが家に顔を出してくれる気持ちになれたのはユーリちゃんのおかげです。カーツ君たちの笑顔が増えたのもユーリちゃんのおかげです」
「うん、あのね、キリカね、ユーリお姉ちゃんがいてくれてよかったのよ」
「そうだ!野菜がおいしいって教えてもらったり、すげー助かってる!」
やだ。
もう。
みんなずるい。
泣いちゃいそうだ。
「まぁ、とにかく、今回は俺とブライスでギルドには報告してユーリのことはギルドに知られないようにするってことだな。サーガ」
「ええ、分かっています。軍医には口留めします。彼は口が堅くて信頼のおける人間ですから大丈夫でしょう」
……と、話し合いが始まりました。
ギルドとのやり取りとか軍のこととか、王都に言った時の話とか聞いていても仕方がない。
「じゃぁ、料理しようか」
「ああそうだ、これを持ってきたんでした。さっき届けられたんです。生け捕りにされなかったコカトリス」
サーガさんがしっぽのついたままのコカトリスをぶらーんと目の前に出しました。
「ぴぎゃーっ」
「ユーリさんっ!【風刃】、キリカっ!」
「あい!ダンジョンに捨ててくるの!カーツお兄ちゃんっ」
「わかった、捌いてくる!」
私が悲鳴を上げている間に、ブライス君がしっぽを切り落とし、切り落とされたしっぽをキリカちゃんがダンジョンに始末しに行き、そしてコカトリスをさばきにカーツ君が出ていった。
あああ、私……。
「助けられてるのは私だよぉ!みんなありがとう!」
何も、強くなってモンスターをやっつけるばかりが人を助けることじゃない。
よくわかりました。
私ができることで、みんなを助けられるように頑張る。
……あれ?
私、日本では……。主人に守られてばかりだったのかな?本当に?私が家庭を守っていたんじゃないんだろうか?
???
まぁいいや。日本のことはどうでもいい。もう、きっと、二度と帰れない。
……いや、まって、もし、突然日本に帰れたら?
この世界に突然来てしまったように、突然日本に帰ることができたら?
すぅーっと、背筋が寒くなった。
あれ?背筋が寒い?
私、帰りたくないの?
いつもありがとうございます。
前にも行ったように、
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