149 そういう対象ではない
王座とか国をローファスさんは手に入れようと思えばできるというの?
ま、まさかね?
S級冒険者って、そんなに力がある?
わけは……ないよねぇ……。
「ありがとう、ローファスさん」
とりあえず、お礼。
「え?何の礼だ?俺は、ユーリの欲しいものが手に入れられないんだろう?」
「ローファスさんのおかげで、大切なことを思い出したの」
何かにとりつかれたかのように、卵が手に入るならコカトリスを飼育したいなんて思ったり、バターがあればもっとおいしくなるのになんて思ったり。
私が本当に望むことは……。
みんなで幸せに、笑顔で暮らせることだもの。
もちろん私も含めて、幸せだなぁって思えればそれで十分。
そりゃ、美味しいもの食べられれば幸せだなぁって思えるけれど。違うんだ。
今あるものでもおいしいものいっぱい食べられるし、偶然ほかにも入手できるかもしれない。
無理をしてまで手に入れなくちゃいけないものなんて、私には必要ない。
「私が欲しいものはね、もう手に入ってるの。だから、ローファスさんが手に入れるなんて無理なんだ」
「手に入ってる?え?」
「キリカちゃんやカーツ君との小屋での生活、私の作ったものをおいしいといって食べてくれるブライス君やローファスさんやサーガさん。みんなの笑顔を見るのが私は幸せなの。あのね、私……欲しいものは幸せな生活だから。もう、十分手に入ってるんだ」
ローファスさんが私の手を取った。
「俺もだ。俺も、幸せだ。だけど、俺は強欲だから……その……」
強欲?
「キリカもカーツもブライスもサーガも……みんな幸せそうな顔を見ると幸せなのはユーリと一緒だ。だが……」
ローファスさんのもう片方の手が、私のほほにあてられた。
「もっと、幸せにしてやりたい。今が幸せだと笑っているユーリを……もっともっと幸せにしてやりたい」
もっと幸せ?
幸せには上があるの?
ああ、確かに……。
日本でも子供たちと過ごす日々は不幸ではなかった。幸せだった。
だけれど、自分の子供が欲しいという願いがかなえられなくて少し心が痛かった。
小屋での生活は、ないものが多いけれど、自分の子供はやはりいないけれど、でも、日本で暮らしていたときよりも何倍も幸せを感じてる。
こんなに幸せなのに、もっと幸せになれるの?
「だから、ユーリの欲しいもがあれば手に入れたいと思った」
サーガさんがローファスさんの背中を叩く。
「兄さん、そうやって、人を喜ばせたいからって、何人の女に騙されてみつがされてきたんですか」
え?
「いや、違う、そうじゃない、別に、ユーリをそういう対象に見てるわけじゃっ」
ローファスさんが慌てて私の手を離して、サーガさんに体を向けた。
「サーガ、俺は、おまえのことも、家族も幸せになってほしいと思う。でも、サーガ、おまえも家族も手に入れようと思えば何でも手に入るだろう?」
サーガさんが笑った。
「手に入りませんよ」
「なんだ?伝説級のモンスターのドロップ品でも探してるのか?さすがにそれは俺でも何ともしてやれないな……」
「家族の望みは、兄さんが元気な姿を見ることですよ。こればかりは、お金やつてで何とかなるものでもありませんし、兄さんにしかかなえられません」
サーガさんの言葉に、ローファスさんがぐっと言葉に詰まった。
「ローファスさん、私、欲しいものありました!前に、本をくれるって言いましたよね?実家に行って取ってきてくれるって。早く文字を覚えたいし本を読みたいから、あの」
ローファスさんが頭を押さえた。
「あー、分かった、分かった!行くよ!どうせ、ギルドの報告したら、王都のギルド本部への報告もしろと言われるんだっ!王都に言ったら、家に顔出すよっ!」
サーガさんが笑った。
「よかったぁ!きっと、お母様もお父様も、ご兄弟の皆さんも喜びますよっ!」
私も嬉しくなって笑う。
「ユーリの嬉しそうな顔が見られたんだ。まぁ、うん。まじで行ってくる。そうだ、キリカやカーツにもお土産買ってきてやるからな!」
ローファスさんが笑って、キリカちゃんとカーツ君の頭をなでた。
「わーい!やったぁ!キリカお土産楽しみなの!」
「俺、ローファスさんがくれるなら何でも嬉しい!」
キリカちゃんとカーツ君も笑顔になる。




