148 君が望むなら王座だろうと
「牛乳から作られるもので、もしかしてないのかな?」
「牛乳ってなんだ?」
カーツ君が首を傾げる。
「牛っていう動物の乳だよ。白くて少し甘くて栄養豊富な飲み物」
「ねー、牛ってなぁに?どんな動物?」
え?そ、そこからなの?
「角があって、えーっと」
どう説明すればいいんだろう。日本で有名なのは白に黒い模様のある牛。和牛とかは黒かったりする。共通点は何?角のある動物も、鹿とか山羊とかいっぱいいるよね?
「角があって、白い飲み物を出す?」
ローファスさんが何かピンと来たようだ。
「ローファスさん、今すべきことではないですからね?探しに行こうとしてはだめですよ!」
と、ブライス君がくぎを刺した。
どうやら、ブライス君もローファスさんがピンときたものを思い描いたようだ。
「いるの?どこかに牛……」
いたとしても、牛、大きいよ。連れてくるつもりとか……じゃないよね?
牛乳だけ持ってきてくれるのかな?でも、腐りやすいよ?
っていうか、もしかして牛乳もハズレなんとかポーションとかにないかなぁなんて思ってたんだけど、違うのかなぁ。
「離せブライス、牛を、牛を」
「【拘束】」
「ずるいぞ、ブライス、力で勝てないからって、魔法を使うなんて」
「お菓子がもっとおいしくなるバターですか。牛……角が生えていて、白い飲み物を出す動物……ですね」
サーガさんがふっとほほ笑む。
「ブライス君、とりあえず何人かコカトリス飼育場建設に人員を回すから、私は、ちょっと」
「【拘束】」
ブライス君が容赦なく呪文を唱えてサーガさんを動けなくしました。
「ブ、ブライス君?何を一体……」
はい。いい判断だと思いますよ、ブライス君。
「あのね、バターはなくても作れるので、その、今すべきことをちゃんとしましょう?そもそも、油が手に入ったので、……あ、ハズレMPポーションが手に入ったので、いろいろおいしい食べ物作れますし。えーっと」
食材がいきなりたくさん増えても、処理しきれない。
正直……。
冷蔵庫もないし。レシピの開発もしなくちゃいけないし。
あったらいいなーとは思うけど、あったらあったで、料理ばかりに手がかかって、私、冒険者として訓練する時間が無くなっちゃうよ!
「今すべきこと、ローファスさんはギルドからいろいろ依頼されていますよね。サーガさんは、軍を統べるものとしての仕事がありますよね」
「くあー、もう、冒険者引退しようかな……」
カーツ君の顔が曇った。
「え?ローファスさん冒険者やめちゃうの?俺、いつか、ローファスさんと一緒にダンジョンに潜るのが夢だったのに……」
そういえば、カーツ君はローファスさんにあこがれていたんだよね。
ローファスさんが困った顔をする。
「冗談だよ、冒険者を引退したりしないよ。むしろ、もっと力をつけて、ギルドから何か言われても跳ね返せるだけの冒険者になるからな!だから、カーツも、俺と肩を並べられるように頑張るんだぞ」
「も、もちろん!頑張るよ!俺、絶対、S級になるんだ!」
ローファスさんの表情が落ち着いたものに変化する。
「ブライス、魔法を解いてくれ。悪かった。俺はもっと力をつける」
ブライス君が魔法を解除する。
「ユーリが欲しいというものをすべて手に入れられるくらい力をつけるからな」
ローファスさんの手が伸びて、私の頭の上にのりました。
「え?」
それ……。
私が欲しいものイコール、美味しいもの。
イコール、ローファスさんがおいしいものを食べたい。
つまり、美味しいものが食べたいから力をつけるって話だよね?
でも、残念だけれど……。
「私が欲しいものはをすべて手にいれるのは無理だと思う……」
だって、物じゃないもの。
欲しいものは、一人でも生きていける力。それから……みんなの笑顔。
「え?俺じゃぁ、力不足だというのか?それとも、王座が欲しいとか国が欲しいとかそういうレベルのものを望むのか?だとしたら……」
「兄さん、だとしたら、どうするつもりですか?あまり物騒なことを口にしないほうがいいですよ。兄さんが言うとシャレになりません」
え?
ご覧いただき感謝でございます。
ローファスさんが不穏……。




