142 抱きしめないでくださいっ!
「う、ああああ、ユーリ大丈夫か?」
大丈夫かじゃないっ。ローファスさん、私を殺す気ですか!
キッとにらみつける。
「あんまり、その、ユーリがいい子だから、なんか、その、ぎゅーってしたくなって……」
うっ。
おかしい、なんだかデジャブ。ぎゅーってしたいとか、どっかで聞いた気が……じゃなくて、私が思ったことだよ。
なんで、こう、微妙にローファスさんと思考が似てるんだろう……。あははは。これは怒っちゃダメ案件です。
「ローファスさんが普段誰をぎゅーっとしているのか知りませんが、私、その力だと苦しいです。肋骨が折れなかっただけ助かりました」
「え?肋骨が折れる?」
ローファスさんが焦った顔になりました。
「ユーリ、ごめん、大丈夫か?そんなつもりは」
おろおろしている。
「大丈夫です。カルシウムちゃんと取った食事をしてましたから、骨粗しょう症じゃないので」
「ユーリお姉ちゃん、カルシームって何?」
あ、そうか。
栄養素のような概念はないのかな。
っていうか、そもそもこの世界の栄養成分ってどうなってるんだろう。じゃがいもとパンだけの生活でもポーションを3日に1回飲めば大丈夫とか言っていたし。
うーん。
日本で生活していた私からすると、そういう栄養を補えるものって、栄養補助食品……の位置づけってあれなんだよね。
「規則正しい食事」があって、それに足りない場合はやむを得ずプラスする感覚。
基本は食事で栄養を取りましょうってどうしても思ってしまう。
となると、今の生活……カルシウム、足りてるんだろうか?
カルシウムを多く含む食品と言えば、乳製品。それから、骨も丸ごと食べる魚介類。しらすやサクラエビのようなものなんだよね。それから大豆。
うーん、どれもない。
野菜にも含まれているとはいえ……もうちょっと何とか考えないと。って、それはあとあと。頭の中にメモしておこう。
「ローファスさんは、今後一切ユーリを抱きしめたりしないでくださいっ!」
ブライス君が怒りをあらわにした言葉をローファスさんに向ける。
あ、うん。そこまで怒らなくてもいいけど。
「え?それは、その、そーっとだったら、いいだろう?」
なぜかローファスさんがブライス君に私を抱きしめる許可を求めている。
「だめです!また、興奮して力が入りすぎたらユーリさんが苦しみます。今度こそどこか怪我させてしまうかもしれませんっ!」
「そ、それは困る。でも、その、じゃぁ、興奮してないときになら……」
なぜ、本人を前にして、本人に許可を取らないのでしょうね?
……。っていうか、話が進みません。
「ブライス君、えっと、さっきのコカトリスの覚えたほうがいい話って?」
と、話に割り込むことにしました。
「ああ、そうでした。ローファスさん、コカトリスをしっかり持っていてくださいね」
ブライス君に言われ、ローファスさんがコカトリスのしっぽをつかんだまま前に出す。
んぎゃ、もしかして、あの蛇にょろ持ったまま、私のことぎゅーってした?
「……」
想像して背筋がひんやり。
「尾だけでなく、頭のほうも持っていてください」
「は?こうか?ここまでしなくても逃げないぞ?」
ローファスさんが、コカトリスの首も持った。
「【風、刃となりきりさけ】」
すぐさまブライス君が魔法の呪文を唱える。
すっぱーんと、ローファスさんの手にしていたコカトリスが真っ二つ。
「うわ!ブライス、何をするんだ!」
ローファスさんの右手には尾を切られたコカトリス。
そして、左手にはコカトリスの尾。まんま蛇にしか見えないそれがぶら下がっている。
キリカちゃんが持ってるのと同じ状態だ。
「ローファスさん、早く、止血して傷薬とか回復薬とかコカトリスの処置してください。そのままだと出血で死にますよ?」
ブライス君がローファスさんの手から逃れようとしている鶏にしか見えなくなったコカトリスを指さした。
「え?止血?あ、あああ、待て、ちょっと持っていてくれ」
カーツ君が、ローファスさんに差し出されたコカトリスの鶏部分を受け取って持った。しっぽ部分はキリカちゃんが持った。
うん、キリカちゃん、3本目ですね……。
いつもありがとうございます。
おかしい……男女が抱き合っても色気がない。
むしろ、締め技……。
あ、昨日でしたよ、昨日!思い出して!




