136 卵、あきらめよう
「うん、キリカ明日もお手伝いするの!」
「俺も!で、大葉はこれだけでいいか?」
明日使う分は明日収穫したほうがいいですよね。
キリカちゃんとカーツ君の手には、30枚ほどの大葉がありました。
「うん。十分……、たぶん」
そういえば、ローファスさんがいたんだ。
どれだけ食べるかな。
サーガさんは今日はどうするんだろう?
不測の事態が色々と置きすぎて、予定も何もめちゃめちゃになってるはずだけれど……。
ああ、とりあえずコカトリスの殲滅……捕獲が終わらないと、ご飯どころじゃないかもしれませんね。
街に広がると大変ですし。
バジルは、あとどれくらいあったかな?
バジルの埋まっている場所に向かう。
10ほどのバジルの株がある。7つほどの株は葉が半分ほどない。今回すでに使ってしまった分だ。
700人分を7株で作ったということは、あとの3株で300人分が作れる。
株から全部葉を取ってしまえば、もっと作れるけれど枯れてしまうかもしれない。
……街の人に移ってしまったら足りない。
次々に町の人たちが倒れていく姿を想像してぞっとする。
とても感染力の強い毒……いや、毒というよりもウイルスや細菌に近いものなのかもしれない。
とにかく……。もし、ひとたび感染者が出たら……。
街の人たち全部をカバーするほどのクラーケンバジル料理はとても用意できない。
上級毒消し草でも対処できるらしいけれど、それもそんなに大量にすぐには準備できないようなことをサーガさんは言っていた。
やはり、コカトリスを飼育するなんて無謀なことなのではないだろうか……。
私が卵が食べたいなんてわがままを言って……それで、もし、コカトリスの毒が広まってしまったら……。
サーガさんとブライス君は、毒を防ぐためにどうしたらいいのかといろいろと話し合ってくれているけれど。
私は知っている。
現代日本で、何重ものもしものための施策を施しても、想定外の何かが起きて、たくさんの人が犠牲になることがあるって……。
今までこの世界の人たちは卵を食べない生活を当たり前としていたのだし、別に不便はない。
もし、万が一……。
私がきっかけで卵レシピを広めてしまったら……。
卵が欲しいがゆえに、ろくな設備も作らずにコカトリスを飼育しようという人が出て来てしまったら……。
はー。
ダメだ。
これは、本当にダメだ。
大変なことになる。
「卵は……あきらめよう……」
いや、あきらめるというより、コカトリスは駄目。
ほかにも探せば卵をたくさん産む鳥が見つかるかもしれない。本物の鶏みたいな鳥がいるかもしれない。
よし。
ローファスさんが帰ってきたらはっきり言わなくちゃ。
コカトリスは繁殖させませんと。
肉だけなら、山鳥で唐揚げは作れるんだもん。私が卵をあきらめれば。
卵の味をまだみんなはマヨネーズしか知らないのだから。きっと、すぐに諦められるはずだ。
私が、我慢すればいいのだから……。
畑から戻ると、ブライス君が小屋の周りをぐるぐると歩いていた。
「ブライス君、何してるの?」
「ああ、ユーリさん。魔物除けの結界をはっている
んですよ。ユーリさん、小屋に魔物が入り込んでいて怖い思いをしたでしょう?」
ブライス君がそういって、また先が光るペンのようなもので小屋に何かをかきながら周りをまわっている。
魔法だ。結界魔法?そんな名前の魔法があるのかな。
もしかして、魔法っていうのは、日本の技術よりも優秀?
鶏小屋からコカトリスが逃げ出すなんていうことは100%防げるの?毒を含んだ空気も遮断することができるの?
だ、だったら……。
ごくんと唾を飲み込む。
あー、だめ!
思わず、食欲に負けて、さっきのコカトリスの卵をあきらめるっていう決意をなかったことにするところだった。
……なんか、食欲に負けて行動するなんて、ローファスさんみたいです。
あああ、まさか、私、ローファスさんに似てきたとか?ちょっ、郷に入っては郷に従えっていう言葉はありますが、これは、従うべきことじゃないと思うんです。
さすがに危険すぎる。
あの感染力は半端なさすぎる。致死率も高すぎる。ダメダメ!
って、あれ?
いつもありがとうございます。
本日日曜ですが、書籍発売まであと5日となりましたので休まず更新しまーす。
と、ところで、初動ってご存知でしょうか?
1巻しか出ないか、2巻も出るかの判断材料……( ;∀;)もうすぐ緊張の日々が始まるのです。
です、です……で……げふげふ




