ss裁縫教室
「キリカちゃん、カーツくん、なかなか時間が取れなかったけれど、今日こそ練習しましょう」
「え? 何の練習?」
「もう夜だぞ、こんな時間から何するんだ?」
「前に約束しましたよね? 縫物を教えるって」
「うわーい! キリカに人形作ってくれるんだよね? キリカは人形の服を作るの!」
「そうだ! ユーリ姉ちゃん縫物教えてくれるって言ってた!」
「では、始めます。今日は基本の縫い方から練習しましょう」
「はい、キリカ頑張るの!」
「俺も! 俺も頑張る!」
夜とはいえ、光の魔法石を使った灯りがあるので、小屋の中は明るい。
十分細かい作業もできる。
「まず、縫物をするのに必要なものがそろっているか確認します。途中でアレが足りないこれが足りないと探すと針をなくしたりして危ないですからね」
「分かった! キリカ、ちゃんと用意してから縫物するの!」
「ダンジョンに入る時に装備の確認をするようなものだな」
「針と糸。これは一緒に置いてあるので問題ありません。あとは縫う布とハサミ。印をつけるための筆記用具があるといいですね」
「はい! キリカ準備できたの!」
「俺も」
「では、まず、針の穴に糸を通してみましょうね」
真剣な顔をして、針の穴に糸を通そうとしている二人。
ふふ。可愛いなぁ。
「あーん、難しいの。糸が逃げていくのっ!」
「通った! と思ったら、糸が半分だけ通って、残りの半分がダマになったぞ」
「ふふふ。小さな針の穴に、糸を通すにはコツがあるの。一つはね、こうして糸の先を斜めに切るのよ」
「斜めだな、こうか? よし……えーっと、おお! 通った! さっきから何度もやってたのになかなか通らなかったのに!」
「もう一つの方法はね、先を濡らすの。ちょっとお行儀悪いけど……」
「キリカする! 分かった! 糸の先をなめるのね!」
「通ったら、濡らしたところは切り落とすのよ。塗れていると布通りが悪くなるからね。針に糸が通ったら、必要な長さで切るの」
「必要ってどれくらい? いっぱい縫うなら長くするの?」
「えーっと、指の長さくらい縫うだけなら、指の長さ分でいいのか?」
「ご、ごめん、そうだよね、分からないよね……。故郷では、みんな基本は知ってるのが当たり前すぎて……ごめん、ごめん」
「みんな知ってるの? すごいねぇ、ユーリお姉ちゃんの故郷って」
「えっと、縫う長さよりは長くないと、最後に玉止めができないのよ。あと、縫い方によって、縫う長さの何倍も糸が長くないと足りないの。返し縫をすると倍以上いるからね」
「じゃぁ、すごーく長くすればいいの? キリカの背より長くなっちゃう」
「ああ、キリカちゃん、長くしすぎると、絡まったりするから。それに、手で引き抜くときに手の長さよりも長いと作業しにくいのよ」
「途中で足りなくなったらどうするんだ?」
「いったん止めて、続きを新しい糸で縫えばいいの。だから、そうね。これくらいの長さかな? 必要な長さって言ったのが失敗だったわね。縫いやすい長さと言えばよかったわね」
「あのね、ユーリお姉ちゃんは悪くないのよ」
「そうそう。こうしてちゃんと分かるように言い直して教えてくれるんだ。何にも悪くない」
「うん、ありがとう……」
主人の「お前の言い方が悪い! なんでもっと分かりやすく言えないんだ!」という言葉が頭に響いた。
「ありがとうね……二人とも」
いい子たち。なんて、私は幸せなんだろう。
ご覧いただき感謝です。
えー、没SS第2段でございまする~




