126 ハンノマ印とローファスさん
皿に、一番大きな鶏からを乗せる。
「ありがとうな……」
ん?
神妙な顔つきでお礼を言われると調子が狂うんですが。
と、いうか……。
「私、あの……ブライス君に言われて気が付きました。何もかも私……ローファスさんの責任にしすぎなんじゃないかって……」
私だってもう三十路だ。もっと考えられたはずだ。
ブライス君に何かあったら許さないじゃない。ブライス君に何か起きないように、私ができることが……。
もっと本気でレシピの研究をしよう。
時間がたっても効果が保てる方法……。
ジャムはその一つだ。
ジャムをパンに塗ると一つの料理が完成するという理屈なのかもしれない。
ジャム……うん。とりあえずはジャムを作ってブライス君に持って行ってもらおう。
ポーションとMPポーションを使ったジャム。どれくらい日持ちさせられるだろうか。瓶に入れても開封して使えばかびたりするし……。
パンをトーストして塗るのではなく、パンに塗るだけでも効果はあるのか。私以外がパンにジャムを塗った場合はどうなるのか。確認しないといけないこともたくさんある。
「ブライス君も……ローファスさんも、キリカちゃんもカーツ君も、みんなを守れるように、私頑張ります」
ローファスさんの手が私の頭をなでた。
「守られてるぞ?俺は、ユーリにもう、守ってもらってる」
え?
「なぁ、なぁ、ユーリ姉ちゃんがバジリスク倒したって本当か?」
そういえば……。
「ハンノマさんの包丁ってすごいですねぇ。命中率100%だったんで、投げたら当たって、当たったらやっつけれちゃったみたいです」
と、軽い口調で言ってびっくりした。
モンスターを、生き物を倒せないと思っていたのに。
殺すなんてできないって思っていたのに。
ショックはない。
えーっと、手元の鶏の胸肉を見る。小麦粉まぶしてオリーブオイルに投入。
……。
この鶏肉の元……。
クラーケンの前に倒れている巨大な鶏。
鶏だから、食材認定?だから、平気なんだろうか?
ブライス君が包丁を見る。
「ハンノマさんって、ドワーフ界の伝説の神の腕とまで言われたバンルカさんの唯一の弟子で、魔剣をも打ち出すことができるという……」
へー。ブライス君も知ってるんだ。
ハンノマさんって有名な人なんだね。
「見せていただいてもよろしいですか?」
「 はい、どうぞ」
包丁の刃を自分のほうに向け、持ち手をブライス君に向ける。けれど、ブライス君は手を伸ばさずにそのままじーっと見た。
おや?この世界では刃物の手渡し方法が違うのかな?
「【鑑定】」
って見るって、そっち?
「こ、これは……」
ブライス君が絶句している。
「なんだ、何が見えたんだ、ブライス教えてくれ!俺の鑑定魔法じゃぁ隠匿されてて情報が読み取れないんだよ」
へー。情報を隠匿することもできるんだ。
「……少なくとも、ローファスさんの持ってるソレよりは上です。いろいろと」
ローファスさんの腰に刺さっている剣を指さしてブライス君が答えた。
「ま、まじか?いや、だって、この剣だって、……ゆ、ユーリ、なぁ、ちょっと、ちょっとだけ貸してくれないかな?」
ローファスさんの手が包丁に伸びた。
「はい、もちろんどうぞ。そもそもローファスさんのお金で買ったものなので、ローファスさんのものですよ?」
「そ、そうか、俺のか!俺のか!」
ローファスさんがにっこぉと笑った。
が、包丁に手を触れたとたんに静電気が起きたようにバチンと小さな音がして、ローファスさんは驚いて手を引っ込めた。
「あー、そういえば、それユーリお姉ちゃんしか使えないんだよぉ」
「そうだった。俺も使おうとしたけど無理だったんだよね」
あ、そういえばそうだった。でも、持ち主であるローファスさんにも使えないなんて。
「あああああっ!なんでだぁぁぁ!」
ローファスさんが絶叫している。
「ハンノマさんが利用者登録をユーリさんに設定したか、ユーリさん以外は何か何かのレベルが足りなくて使用条件を満たしてないかでしょうね」
ご覧いただきありがとうございます。
楽しんでいただけていますでしょうか。
ローファスさん……きっと礼儀のなっていないクソガキだったんでしょうなぁ。
カーツ君やキリカちゃんのようにいい子じゃなかったのでしょう(想像)




